ユリイカ 2007年11月臨時増刊号 総特集=荒木飛呂彦
『美術手帖 荒木飛呂彦特集』を読んでいたとき、文中にしばしば引用されていたのが、『ユリイカ』の荒木飛呂彦特集号だった。2007年に発行されている雑誌だが、まだ販売していたので購入。増刊号で、一冊まるごと荒木飛呂彦特集だ。
この本に関するネット上の評判は、必ずしも好意的ではない。実際、私も読んでいて「ん?」と思ったところはいくつかある。巻頭が荒木と斉藤環と金田淳子という人との対談なのだが、終盤は金田が暴走してほとんど「やおい」についての妄想話になり、荒木がすっかり引いてしまっていた。その次の草森紳一という人の文章も、足や靴に着目し第4部の広瀬康一と吉良吉影との戦いをピックアップしているのだが、広げまくり脱線しまくったあげく、まとまりのないまま終わってしまっている。
ただそれでも、以前第4部前半で挫折し、アニメ放送と2012年のジョジョ展開催を機に、詰め込むように1か月で107巻を読んだ身としては、興味深い文章がいくつかあった。この本が刊行されたのは、『ジョジョ』連載20周年で、第7部『スティール・ボール・ラン(SBR)』連載中というタイミングだったようだ。
『ジョジョ』には「パワーのインフレ」はないが「ルールのインフレ」があり、それこそが魅力なのだという指摘。「パワーのインフレ」とは、同じ週刊少年ジャンプに連載されていた『キン肉マン』『ドラゴンボール』などに見られるような、次々に強大な敵が現れては主人公が友情や努力の後に勝利する、というサイクルを指している。しかし『ジョジョ』は、特にスタンド戦以降はルールが複雑化され知能戦に持ち込まれている。「ルールのインフレ」を発明したことこそが『ジョジョ』の快挙で、『デスノート』がその後継にあたるとしている。
女性キャラクターに着目した文章も面白い。『ジョジョ』以前の短編『ゴージャス・アイリン』までさかのぼり、第2部のリサリサや第5部のトリッシュを経て、第6部で承太郎の娘徐倫が主人公になるまでを考察している。第1部でエリナがディオに強引にキスされるが、その後エリナが泥水で口を漱ぐシーンがあって、これは初めて読んだときにすごいと思った。また、文中では具体的に触れられていないが、第7部でディオの母親が炊き出しを素手でディオに与えているシーンがあったが、これは手塚治虫『どろろ』でも読んだことがある。
ファンサイトの管理人による、熱い文章も見逃せない。「ジョジョ立ち」を命名したのもこの人だそうで、その2年後には『現代用語の基礎知識』に「ジョジョ立ち」が掲載されたそうだ。また、「ジョジョ立ち」を体現する友人がいて、ハチ公前や大阪城前で数100人による「ジョジョ立ち」が敢行。それが荒木サイドの知るところとなり、荒木の記念パーティーに呼ばれたそうだ。これって、すごい。
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