家族ゲーム(1983年)
4人家族の沼田家は、長男慎一は成績優秀の高校生で、次男茂之は成績が振るわない中学生。茂之は高校受験を控え、家庭内はピリピリしている。父親は茂之の成績をあげるべく、家庭教師として吉本を雇う。
3流大学の七年生という吉本は、ビンタも辞さない厳しい態度で茂之に勉強を教える。茂之自身は、自分が頭が悪いとは思っておらず、ただやる気がないだけだと考えている。2人の関係は決して良好ではないが、それでも茂之は徐々に成績をあげ、Aランクの高校に合格する。
何度か観ている作品だが、よくわからず、改めて観てもやはりよくわからなかった。ただ、誰か特定の人物に感情移入するような作品ではなく、シュールな世界観そのものを観て、何かを感じるものなのではないかと思った。
どのキャラクターも、ひとくせある。吉本はとても大学生には見えず、飄々としていて感情を表に出さない。目玉焼きをすする父親は恐らく学歴コンプレックスで、息子をいい大学に入れ、いい会社に入れるという、ひと昔前の考え方に染まっている。
慎一は親の意を汲んでいい子を装っているが、不登校になるなど微妙な兆しを見せる。茂之は仮病を使って学校を休んだりいじめにあったりしていて、性格も煮え切らない。父親が息子と直接向き合わない分、母親が息子の相手を一手に引き受けさせられているが、息子のことをよくわかってはいない(ただ、この状況で母親は責められないと思った)。
クライマックスは、茂之の合格祝いで吉本がムチャクチャやらかすシーンだ。しかし、吉本は怒りを爆発させるでもなく、無表情に近い形で淡々と暴れていて、バラバラな家族が向き合うきっかけに、という類いとは異なる。
どう受けとればいいのか考えた末、タイトルに立ち返った。要は「ゲーム」なのだ。この家族も、学校も、生活も、ここで描かれているものすべてが。
キャストは、吉本に松田優作。本作はこの人の評価を高め、いくつかの映画賞を受賞もした。非日常を生きるアクションスターを脱却し、日常を生きる男を演じたことになっている。が、何を考えているかわからない不気味さは、アクションスターから継続している。監督は森田芳光で、この後も『それから』で優作とコンビを組む。
父親は伊丹十三で、この後映画監督として話題作を次々に発表。もしかすると、ここで森田に刺激を受けたのかもしれない。母親は由紀さおりで、シンガーとしてのイメージが強い人だが、ここでの演技はこの人の俳優業の代表作になっていると思う。慎一は辻田順一という人だが、どうやらその後芸能活動の方には行かなかったようだ。
茂之は宮川一朗太で、昨今は『半沢直樹』での俳優業やバラエティー番組の出演などで活躍中。本作でデビューとのことだが、この2年後の『姉妹坂』での堂々たる佇まいを思うと、短期間に飛躍的に成長したと思わせてくれる。
学校の教員に、松金よね子や加藤善博、伊藤克信。沼田家と同じ団地に住む主婦に戸川純、吉本の恋人らしき女に阿木燿子と、脇を固める俳優陣が実は豪華だった。
関連記事
-
狼の紋章(1973年)
博徳学園の教師青鹿晶子は、夜道で少年がチンピラに刺されるのを目撃してしまう。その翌日、自分が
-
陽炎座(1981年)
劇作家の松崎は、品子という女と偶然の出会いを重ね、この不思議な体験をパトロンの玉脇に話す。そ
-
あばよダチ公(1974年)
刑期を終えて出所した猛夫は仲間の梅、雅、竜とつるむが、キャバレーで無銭飲食してひと騒ぎして留
-
嵐が丘(1988年)
エミリー・ブロンテが書いた小説で、何度も映画化され、舞台化もされている作品。吉田喜重監督によ
-
人間の証明(1977年)
赤坂の高層ビルエレベーターの中で、ナイフで胸を刺された黒人青年が倒れ、まもなく死亡。殺人事件