ザ・スミス(The Smiths)楽曲が全開『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』
1987年のコロラド州デンバー。テレビでザ・スミス解散の報を目にしたクレオはショックを受け、レコードショップに行き店員のディーンと会話を交わす。その日の夜、友人のビリーが翌日から軍隊に入隊するため、クレオはシーラとパトリックの4人でパーティーに行く。
同じ頃、ディーンは地元のヘヴィーメタル専門FMラジオ局に行き、DJに銃を向けて、持ち込んだスミスのアルバムをかけるよう脅す。バーでくつろぐ4人は、ラジオからスミスの曲が流れてくるのに反応する。クレオは、それはディーンが仕掛けていることだと気づく。
クレオの部屋にはスミスのポスターが壁を覆い尽くさんばかりに貼られ、愛車ワーゲンにもスミスのステッカーを貼りまくっている。ビリーは『Hatful Of Hollow』のTシャツを着ていて、と、やりすぎるくらいスミス色に染めている。クレオはディーンのショップでカセットテープを万引きするが、ディーンは見て見ぬふりをする。タイトルの『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド(Shoplifters Of The World)』はスミスの曲名だが、「ショップリフターズ」は万引き犯の意味だ。
音楽ネタは、スミスに限定されず豊富だ。シーラのファッションはもろに当時のマドンナだし、ディーンのショップでは壁にピーター・サヴィルが手掛けたニュー・オーダーのポスターが確認できた。終盤に4人が訪れるバーでは、ブロンスキー・ビートが流れていた。
会話の中にも音楽ネタが豊富で、アーティスト名がポンポン出てくる。但し、ニルヴァーナは1987年時点では結成したかしないかのタイミングと思われ、世には出ていないはずだ(でも、『ボヘミアン・ラプソディ』も時系列が前後しているし、細かいことは言いっこなしかな)。曲の歌詞になぞらえた会話も、数多く含まれていたかもしれない。
ディーンに脅されてスミスを流す、メタルファンまる出しのDJも、いい味を出している。『Meat Is Murder』をかけるときに彼らはベジタリアンかと聞き、ディーンはそれを認め自分も倣っていると応える。するとそのDJは、ブラック・サバスのドラマーに倣って自分も肉を食べないと言った。スミスと対極の音楽性としてメタルが位置づけられているのに、思わぬところで共通点が見つかったのだ。
デンバーは、u2やニール・ヤングがライヴ映像をリリースしたレッドロックスがある地として記憶していたが、田舎と言って差し支えないところのようだ。ファンがスミスをかけるようラジオ局を襲った出来事は、実際にあったそうだ。但し未遂に終わり、また時期も解散の翌年1988年とのこと。ただ、そこに着想を得て物語を膨らませたのは、してやったりだと思う。
スミス結成前夜を描いた『イングランド・イズ・マイン』、デヴィッド・ボウイのブレイク直前を描いた『スターダスト』は、どちらも本人サイド非公認のため曲が使えなかった。よってカヴァーや影響を受けた曲などを流すという、苦肉の策を取らざるをえなかった。しかし今回は、劇中のキャラクターがスミスの曲をかけ、またBGMでもスミスが流れまくっている。本物が流れると、こうも気持ちがいいものかと思わされる。そのほか、スミスの写真や映像が何度も登場し、徹底してるなと思った。
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