キング・クリムゾン(King Crimson)Music Is Our Friends Japan Tour 2021 初日 東京国際フォーラム ホールA
コロナ禍で洋楽アーティストの来日公演がなくなってから、2年近くになる。今夜のキング・クリムゾンは、個人的に2019年12月のU2以来の洋楽アーティスト公演で、u2に行ったのが遠い昔の感覚になってしまっている。
注意事項のアナウンスの後、バックステージからロバート・フリップの肉声が流れ、それに呼応するメンバーの音声も流れてくる。そして、7人がほぼ同時に登場。3人のドラマーのプレイで幕を開ける。
メンバー配置は、前回の来日と同じだ。前方向かって左から右に、パット・マステロット、ジェレミー・ステイシー、ギャヴィン・ハリスンの、3人のドラマー。後方ひな壇を向かって左から右に、メル・コリンズ、トニー・レヴィン、ジャッコ・ジャスクジク、そしてロバート・フリップ。ワタシの席は向かって左前方、つまりパット・マステロット側だ。
序盤、早くも『In The Court Of Crimson King』が披露。ジェレミーはキーボードを弾いていて、つまりツインドラム状態だ。『Red』『One More Red Nightmare』と、アルバム『Red』からの曲が固め撃ちされたのも嬉しかった。『Red』は、ライヴ音源では定型的なドラムビートがあるが、ここではそれがなかった。パットの手数の多さが凄まじく、まさにライヴは生き物なのだと思った。
前回の来日と異なるのは、ビル・リーフリンがいないことだ。ビルは昨年ガンで亡くなっていたが、実はクリムゾン参加時から闘病中だったことを、後になって知った。前回来日時にはドラマーではなくキーボード専任になったのは、そうした事情もあったようだ。そして、ビルの後任としてドラムを担っているのが、ジェレミー・ステイシーだ。一見地味なリズム重視のドラムと、メロディーの要になるキーボードの、双方を担っていた。ビルの遺志を継いで、という見方は過剰だろうか。
ジャッコ・ジャスクジクは、キング・クリムゾン歴代ヴォーカリストが歌った曲をすべて引き受けなければならない、かなりきつい役回りだ。当然100点にはなりえないが、個人的には80点のアベレージは叩き出していると思う。もちろん他にも要素はたくさんあるが、この人がいることでキャリア横断型のセットを組めるようになったのだ。また、この人はギタリストでもあって、ロバート・フリップと頻繁にアイコンタクトを取っているように見えた。
今回ワタシのポジションからは、パットのドラムセットの陰になっていてトニー・レヴィンのプレイを直接観るのは困難だった。ただその代わり、スピーカーからはトニーのベースがクリアに聴こえ、この人がクリムゾンの音楽で果たしている役割を認識することができた。スキンヘッドに口ひげ姿は変わらず、見た目は歳を感じさせないが、実はフリップと同じ年の75歳。しかし、衰えを感じさせない。
メル・コリンズは、現ラインナップの中で最も「遊べる」人だと思う。曲によってはもともと管楽器の入っていないものも演奏されるが、この人は全曲で演奏している。サックスやフルートなど5~6本の管楽器を駆使し、型にとらわれないアドリブとも思えるアレンジで、バンドにアクセントを加えている。この後の第2部を終えたときは、かなり上機嫌だった。
第1部のラストは、まずトニー・レヴィンのベースイントロがあり、続いて3人のドラマーのプレイが続く。3人のまとめ役はパットで、パットのプレイに2人が倣い、パットは少しずつスタイルを変え、2人はそれについていく、のリフレインだった。実は今回2部構成とは思わず、終了後に彼らが立ち上がったときは、まさかこれで本編終了?と思ってしまった。ほっ。
そして第2部へ。3人のドラマーのプレイを経て、きらびやかなイントロから『Larks' Tongues In Aspic Part One』へ。ここで注目したのは、ロバート・フリップのギターだ。後方端の目立たないところでのプレイはお馴染みで、椅子に腰かけたまま淡々とプレイ。見た目に動きがほとんどないため単調なプレイに思えることもあるが、エフェクターなどを駆使しているのだろう。決めるところでは決め、耳に焼き付くリフはやはりこの人から発せられていることを再認識した。
西城秀樹もカヴァーした『Epitaph』を経て、『Level Five』。この曲は7人全員でのプレイバトルの様相を見せ、ライヴで演奏されるたびに進化している曲の筆頭格ではないかと思う。そしていよいよ、『Starless』のイントロが。この曲は個人的に最も好きなクリムゾンの曲で、ヴォーカルパートが終了した後のインプロヴィゼーションは、ロック史に残る名演のひとつだと思っている。これまで何度か体感させてもらったが、これが最後になるかもしれないと思うと、少し寂しい気持ちになった。終盤はアルバム『Red』裏ジャケのメーターがレッドゾーンを指すのにリンクするように、ステージが赤いライティングで染まった。
さあアンコールだ。ここで何が放たれるかは暗黙の了解、もちろん『21st Century Schizoid Man』だ。驚いたのは、この局面でギャヴィン・ハリスンのドラムソロを入れてきたこと。ギャヴィンのプレイは手首のスナップを利かせていて、スティックの動き方が変幻自在でトリッキーだった。全員の演奏では、メル・コリンズのフリーキーなサックスが映えた。数回無音になるところも、もちろんぴたっと決めていた。
すべてが終了し、唯一公式に許された写真タイムに。トニー・レヴィンの合図を確認した後、とにかく夢中で撮りまくった。
セットリスト
第1部
Drumsons
Pictures Of A City
The Court Of The Crimson King
Red
One More Red Nightmare
Tony's Cadenza
Neurotica
Indiscipline
Islands
第2部
Drumsons
Larks' Tongues in Aspic, Part One
Epitaph
Radical Action 2
Level Five
Starless
アンコール
21st Century Schizoid Man
コロナ禍での来日公演が厳しい要因のひとつに、来日時の自主隔離期間があることを、プロモーターは語っていた。現在はその要請はなくなったものと思っていたが、なんとメンバーは前乗りして自主隔離をおこなっていた。これには驚愕し、そして嬉しくなった。
トニー・レヴィンは、来日インタビューにて今回がクリムゾン最後の来日になるだろうと語っていた。メンバーの年齢を思えば、致し方ないところだと、読んだときは思っていた。がしかし、実際にライヴを観た後で言わせてもらえれば、彼らはまだまだやれる。そして、もっとやれる。結成50周年を経てなお、キング・クリムゾンは進化を続けているのだ。
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