『FLOWERS OF ROMANCE』収録 上條淳士短編集『山田のこと』
年末、上條淳士展「TO-Y SPECIAL SHOWCASE」に足を運んだ次の日に、ネットで探して短編集『山田のこと』を入手。届いたのは年が明けてからだったが、非常に読み応えのある一冊だった。
表題作『山田のこと』は、『TO-Y』のヒロインであるニヤを主人公にしたサイドストーリーだ。『TO-Y』連載中に少年サンデー増刊号に掲載されたとのことで、ニヤがTO-Yにはじめて出会うシーンが描かれている。つまり、劇中の時間軸としては『TO-Y』本編よりも前に当たる。本編ではある意味超越したキャラクターのニヤだが、ここではふつうの女子中学生で(同級生には変わり者扱いされているが)、なんだか安心する。
他には、デビュー作『モッブ★ハンター』をはじめとする初期作品、長編連載の足がかりになった『ごお・うえすと』前後編、『TO-Y』の直前に書かれたという『密林伝説』などを収録。『TO-Y』を知った上で『ZINGY』のギャグテイストに触れると面食らうが、これらの作品を読むことで、上條はそもそもこういう人だったのだと思えるし、絵柄についても納得できる。
そして、最後に収録されているのが『FLOWERS OF ROMANCE』だ。少女雑誌に掲載され、時期としては『TO-Y』終了後、『SEX』の前になる。つまりはこの2作の橋渡しのような位置づけにある。この辺りに来ると、絵の完成度の高さは尋常ではなくなっていて、最早芸術の領域だ。ストーリーも秀逸。2人の男の精神的なBLだが、距離感のとり方が絶妙で、純文学をビジュアル化したかのようだ。
ワタシのウェブサイト「Flowers Of Romance」のタイトルは、パブリック・イメージ・リミテッド(P.i.L.)のアルバム名から拝借した。そして、上條が『FLOWERS OF ROMANCE』という作品を描いていたこともどこからか聞き知っていて、ずっと探していた。やっと、出会えた。
コチラは、劇中、男たちの運命をオーバーラップさせたかのような花があって、それを指しているのだと思う。ただ、上條がこれまで描いてきた作品から垣間見られる音楽趣味からするに、P.i.L.を知っていても何ら不思議はなく、掛けているような気もする。
関連記事
-
上條淳士展「TO-Y SPECIAL SHOWCASE」に行ってきた
上條淳士の代表作『TO-Y』が、連載35周年を迎えたとのこと。記念の展示が行われている日本橋
-
上條淳士『SEX』、完結
80年代の終わり頃にヤングサンデーに連載されていた上條淳士の『Sex』が、単行本で毎月刊行さ
-
上條淳士『TO-Y』
高校生でパンクバンドGASPのヴォーカル藤井冬威(TO-Y)は、従姉妹でアイドル歌手の森が丘
-
上條淳士『ZINGY』
最終戦争で、世界が無法地帯になってしまった20xx年。巨大組織B・メイソンのギルはTOKIO