それから(1985年)
明治後期。長井代助は大学を出ても仕事につかず、親の資金によって優雅に暮らしていた。あるとき、大学時代の同期の平岡、そしてその妻三千代と再会。三千代は2人と同期だった菅沼の妹で、菅沼はチフスで亡くなっていた。
代助と三千代はかつては互いに惹かれあっていたが、代助は自分よりも平岡と結婚する方が彼女にとって幸せと考え、自ら身を引いていた。しかし、2人はやがて平岡のいないところで何度も会うようになる。そして、三千代は心臓を病んでいた。
三千代と平岡を結びつけたのは、他ならぬ代助だった。しかし4年の月日が経って、代助はそれがまちがいだったことに気づく。そして、2人のことを平岡も感づいている(4年前は気づいていなかったと思う)。三千代は、終盤で代助への復讐のために平岡と一緒になったことを告げる。淡々とした空気ながら、出口の見えない閉塞感が漂い、観ていて胸が締め付けられる。
夏目漱石原作の小説を、森田芳光監督で映画化した作品だ。おおむね原作に沿ってはいるが、原作の方が金の貸し借りなどがより生々しく、物語の進行も複雑になっている。映画は、わかりやすく伝えるためにシンプルにしたのだと思う。
キャストは、代助を松田優作、三千代を藤谷美和子、平岡を小林薫、菅沼を風間杜夫、代助の兄を中村嘉葎雄、その妻梅子を草笛光子、父を笠智衆、代助の知人(同期だったかな)をイッセー尾形、代助の自宅に住み込む書生を羽賀研二、従妹を森尾由美、代助の見合い相手を美保純と、見直してみるとかなり豪華だ。
声が大きく直情的な、そしてある意味被害者でもある平岡の方が、代助よりも見ていてわかりやすい。小林薫は、平岡の役で日本アカデミー助演男優賞を受賞している。あまり感情を表に出さない代助は、どちらかといえば損な役回りで、共感もされにくい。しかしリドリー・スコットは、「ブラック・レイン」のオーディションの際に、この作品での松田優作の演技を気に入ったというエピソードもある。
関連記事
-
狼の紋章(1973年)
博徳学園の教師青鹿晶子は、夜道で少年がチンピラに刺されるのを目撃してしまう。その翌日、自分が
-
華の乱(1988年)
歌人の師匠でもある与謝野寛に恋い焦がれていた晶子は、同僚の山川登美子を出し抜いて寛と結ばれ、
-
ア・ホーマンス(1986年)
記憶喪失の男が、大島組と旭会の抗争真っ只中の新宿にバイクでふらっとやってくる。大島組幹部の山
-
あばよダチ公(1974年)
刑期を終えて出所した猛夫は仲間の梅、雅、竜とつるむが、キャバレーで無銭飲食してひと騒ぎして留
-
陽炎座(1981年)
劇作家の松崎は、品子という女と偶然の出会いを重ね、この不思議な体験をパトロンの玉脇に話す。そ
- PREV
- トゥームストーン(1993年)
- NEXT
- ア・ホーマンス(1986年)