*

「キューブリックに愛された男」を観た

キューブリックに愛された男

に関わるドキュメンタリー映画だが、映画制作とはまた別のところでキューブリックに近かった人のドラマであり、それがキューブリックの人物像を映し出すことにもなっている。

イタリア人のエミリオ・ダレッサンドロは、18歳のとき夢を追ってイギリスに渡った。レーシングドライバーからタクシー運転手に転じ、あるとき映画会社の依頼でとある巨大オブジェ(「時計じかけのオレンジ」のアレ)をスタジオまで運んだ。後部座席からはみ出たオブジェを毛布で包み、その配慮に感心した映画会社のオーナーであるキューブリックは、エミリオを雇った。

エミリオはキューブリックの専属運転手になったほか、事務処理や飼っている動物の世話といった雑用をこなすことを求められた。自宅には、しょっちゅう電話がかかってきた。細かく指示された多くのメモは、今もエミリオの手元に残っているようだ。

キューブリックとエミリオはビジネスでは上下関係にあったが、エミリオは困ったことや主張したいことは遠慮なく伝えた。キューブリックはそのほとんどを受け入れ、ついには自宅近くにエミリオとその家族を住まわせた。2人は、友人のような関係でもあった。エミリオの息子が事故で足を切断する事態になったとき、キューブリックは病院や医師の紹介をし、どんな協力でもすると言った。

映画監督としてのキューブリックは神経質で気難しいイメージがあるが、そんなキューブリックが家族以外で心を許した数少ない人がエミリオだった。キューブリックが両親をに招いて観光したときや、「シャイニング」の撮影現場に両親を見せたときには、エミリオを付き添わせた。

アイズ・ワイド・シャット」では、演じる主人公が新聞を買う売店の主人として、エミリオは出演している。街並みのセットには「カフェ・エミリオ」というお店も作られた。エミリオの奥さんも、エキストラとして出演した。素人の2人をキューブリックが起用したのは、親しい関係にあることの現れであると同時に、自らの死が近いことを悟っていたからではないだろうか。

エミリオの自宅ガレージには、キューブリックからもらった「お宝」が保存されている。リビングには、「シャイニング」の絨毯が敷かれていた。してやったり、かな。

関連記事

博士の異常な愛情(1964年)

米ソ冷戦時代。アメリカ軍のリッパー将軍が突如ソ連への核攻撃を指示し、基地にたてこもる。巻き込

記事を読む

『スタンリー・キューブリック(シリーズ 映画の巨人たち)』を読んだ

映画監督スタンリー・キューブリックの、人物像や作品世界について書かれた書籍を読んだ。

記事を読む

時計じかけのオレンジ 完全版(小説)

スタンリー・キューブリック監督による劇場公開作品が有名だが、実は原作の小説があって、読んでみ

記事を読む

時計じかけのオレンジ(1971年・映画)

近未来のロンドン。アレックスは仲間とつるみ、4人組で暴力行為に明け暮れていた。ある晩、老夫婦

記事を読む

スパルタカス(映画・1960年)

紀元前70年代のローマ帝国。鉱山で強制労働を強いられていた奴隷の青年スパルタカスは、資質を見

記事を読む

  • 全て開く | 全て閉じる
PAGE TOP ↑