テリー・ギリアムのドン・キホーテ(ネタバレあり)
スペインの田舎で撮影中だったトビー。かつてはハリウッド進出を夢見ていたが、現実はCMディレクターにおさまっていた。ある夜酒場でジプシーの売り子に渡されたDVDは、自分が学生時代に製作したドン・キホーテの物語だった。その撮影地の村が近くにあることを思い出し、10年ぶりに訪れてみる。
しかし、もとは靴職人で主人公ドン・キホーテに起用した老人ハビエルは、その後も自分がドン・キホーテだと思い込んでいた。ヒロインに起用した酒場の娘アンジェリカは、女優を目指し村を出ていた。ハビエルはトビーをドン・キホーテの従者サンチョと呼び、冒険に連れ出す。トビーは何度もハビエルを諭すが伝わらず、と言って放っておくこともできず、ハビエルと行動を共にする。
この映画には、作品の内容以前にその製作にかかるエピソードがつきまとう。「映画史上最も呪われた企画」と。構想30年、企画頓挫9回とのこと。資金難や自然災害、相次ぐキャスティングの交代など。ハビエル役はジャン・ロシュフォールやジョン・ハートだったこともあり、トビー役はジョニー・デップやユアン・マクレガーだったこともあったそうだ。
監督はテリー・ギリアム。邦題は『テリー・ギリアムの~』となっているが、原題は『The Man Who Killed Jon Quixote』だ。構想30年というと『バロン』公開前後辺りからということになり、何度も頓挫する間にこの人はいくつもの作品を世に出している。個人的にも、『12モンキーズ』『Dr.パルナサスの鏡』『ゼロの未来』といった作品を観ている。
というわけで最終キャストは、ハビエルにジョナサン・プライス。この人にとっては、企画が延びたことが歳を重ねて老人を演じられることにつながり、結果的に功を奏したことになる。個人的には、やはりギリアム作品の『未来世紀ブラジル』のイメージが強烈だが、近年は『天才作家の妻―40年目の真実―』での老作家ぶりが記憶に新しい。
トビーは、アダム・ドライバー。『スター・ウォーズ』続3部作でカイロ・レンを演じて顔を売り、『ブラック・クランズマン』は昨年アカデミーにノミネート。本作は日本公開こそ2020年だが、欧州公開は2018年、北米公開は2019年。なので、この人にとっては『最後のジェダイ』と前後して臨んだ作品になる。
トビーへの出資者ボスは、『マイティ・ソー』での博士役だったステラン・スカルスガルドという人、その妻が『オブリビオン』のヒロイン、オルガ・キュリレンコだった。オルガについては黒髪のイメージがあって、今回は金髪の風貌で気づけなかった(汗)。中盤以降にハビエルやトビーと同等に活躍するアンジェリカは、ジョアナ・リベイロという人だ。
当初は、10年前の撮影時と現在とが交錯する展開だった。ところが、自身をドン・キホーテと思い込むハビエル登場以降は、物語と現実との境界線がいよいよあいまいになってくる。コレは、テリー・ギリアム作品では珍しいことではない。しかし、実はセルバンテスによる原作の『ドン・キホーテ」』も、騎士道物語を読んで感化された主人公がドン・キホーテを名乗り、物語と現実との区別がつかなくなる展開とのこと。ギリアムは、原作のプロットを大事にしていたのだ。
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