U2『No Line On The Holizon(DVD付)』
2009年3月にリリースされた、u2のアルバム『No Line On The Holizon』。バンドがデジタルに大きく寄った最初が『Achtung Baby』で、以降『Zooropa』『Pop』とサイバー路線が続いた。『No Line On The Holizon』は、もちろん従来のU2らしさも残してはいるが、『Pop』以来のテクノに寄った作品のような気がしている。特に、イントロにテクノ~アンビエント色が出ている曲が見られる。
『Magnificent』の長めのイントロはロックとテクノのボーダーラインを進んでいるようだし、『Moment Of Surrender』のイントロはアンビエントっぽい。『Fez – Being Born』などアンビエントの極致だ。これが論議の的にならないのは、リードシングル『Get On Your Boots』が従来のU2式ギターロックのフォーマットにあり、かつ象徴的だからで、その辺りバンドはうまくやっている。
デビューから『Rattle And Hum/魂の叫び』までのロックに殉ずる正統派のイメージから、U2はなかなかテクノ指向をオープンにできず、『Achtung Baby』で強行突破した。がしかし、実は『The Joshua Tree』のデラックスエディションにもテクノに寄った曲があって、バンドはもっと自由に音楽をやりたかったに違いない。
ワタシが入手しているのは、初回限定のボックスセット。アルバムジャケットは、杉本博司という日本人写真家の作品を適用したのだそうだ。直訳すると「水平線には線はない」というアルバムタイトルになるが、そのワードにシンクロするかのようだ。U2のバンド名もそのタイトルも表記しないやり方はなんだか『Led Zeppelin 4』を思い起こさせ、U2の歴代アルバムの中でもかなり異色のジャケットになっていると思う。
通常盤にはあるボーナストラックは付与されていないが、豪華な装丁とレコーディング風景や手書き歌詞などの写真が多数掲載されたブックレット、それに「Linear」と題されたDVDが同梱されていて、熱心なU2ファンであるならば持っていて損はしないアイテムになっていると思う。
DVDは、これまでU2を撮り続けてきた写真家のアントン・コービンによるイメージ映像だ。『No Line On The Holizon』のほぼ全曲を、曲順こそ並べ替えはしているものの流しまくっていて(つまり、音声はない)、アルバム未収録曲『Winter』も加えられている。警察官と思しき男が白バイを焼き、自分のバイクに乗ってどこへともなく旅に出るという、どことなくアメリカンニューシネマに近いテイストがあるが、ストーリーうんぬんよりも観て感じてイマジネーションを膨らませるという映像に思える。
『No Line On The Holizon』は、U2がテクノやアンビエントをやって不自然さを感じさせない作品だ。過去の作品との比較になれば、今作をベストフェイバリットにあげる人は多くはないだろう。しかし、U2が紆余曲折を経てこの領域に到達したのは感動的だし、それだけに360°ツアーでの来日が実現しなかったのが残念でならない。
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