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シュガーマン 奇跡に愛された男(2012年)

公開日: : ドキュメンタリー

シュガーマン 奇跡に愛された男(2012年)

1970年代前半にデビューするも、商業的には全く成功することができず、ひっそりと消えたアメリカ人アーティストがいた。しかし、1970年代後半以降、アメリカから遠く離れた南アフリカ共和国でこの男の曲が反アパルトヘイトの象徴ソングとしてヒットする。レコードショップに持ち込まれたのがきっかけとされるが、それが誰かは不明。やがて地元のプロモーターが、本人招聘に動き出す。

その男は、シュガーマンことシクスト・ロドリゲスという。

ステージで自殺し引退したという都市伝説もあったが、本人は生きて質素に暮らしていた。招聘に応え、家族を伴って南ア入りする。現地で騒がれていることは、ことばだけでは信じてもらえないだろうと娘が映像を記録していた。そしてライヴ当日。5000人の会場はソールドアウトとなり、ロドリゲスは地元のバンドにバックを依頼して数回のステージをこなした。その後はまたもとの生活に戻り、ギャラは家族や親戚に分配したそうだ。

これは架空の物語ではなく、ドキュメンタリーだ。アメリカと南アが舞台にもかかわらず、スウェーデン・イギリス制作となっている。85分の作品ながら、ロドリゲスが登場するのは50分近く経ったところ。本人が出てくるまでは、もうこの世にはいない人なのではという気持ちもよぎった。

ロドリゲスはいたって穏やかで、南アでの大歓迎にはもちろん気をよくしていただろうが、といって舞い上がるでもなく、感激して取り乱すでもなく、大観衆を前にステージをこなす。この人を招いたプロモーターや地元メディアや、バックを務めたバンドメンバーたちの方が興奮していて、そのコントラストがなんともユニークだ。

監督がスウェーデン人のマリク・ベンジェルールという人で、恐らくこの奇跡のような事実に魅せられ、記録して世に出そうと尽力した中心人物のひとりだろう。今作はアカデミーの長編ドキュメンタリー賞などを受賞しているが、マリクは公開から2年後の2014年になんと自殺している。まだ36歳の若さだった。

そして、ロドリゲスは昨年8月8日に81歳で亡くなっている。

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