メイキング・オブ・ブレードランナー ファイナル・カット
映画『ブレードランナー』の制作時から取材を敢行し、作品の裏側を克明に綴った書籍が1997年に出版。そして、2007年の公開25周年と『ファイナル・カット』公開を記念して情報を補完したのが、タイトルの書になる。
章立てはほぼ時系列で、エピソードも満載だ。監督のリドリー・スコットはニューヨークでの撮影を望んでいたが、諸事情で断念しロサンゼルスになった。スコットのこだわりから撮影はスケジュールを大幅に押してしまい、予算オーバーになってしまった(予算をめぐる記述は、作中何度も繰り返されている)。
デッカートは当初、探偵風のキャラクターを考えトレンチコートに帽子といういでたちをイメージしていたが、ハリソン・フォードがその前に主演していた『レイダース』で帽子をかぶっていたため、トレンチコートだけになった。ハリソンは撮影終了後にナレーション収録のため呼び出されるなどがあり、当時はデッカード役に決して満足はしていなかったようだ。
時代は2019年だが、当初の設定では2020年だった。しかし、英語では「Twenty Twenty」という表記になり、視力検査の「2.0」とダブってしまう。スコットはこれを嫌い、2019年に変更した。しかしこの変更が細部まで行き届かず、1982年公開時にはさまざまな矛盾が生じてしまった。
その最たるが、レプリカントの人数だ。地球に潜入したレプリカントは6名いて、うち1名は既に処分済み、残り5名を処分するのが、ブライアントがデッカートに依頼した件になる。ところが、レプリカントはバッティ、プリス、ゾーラ、レオンの4名。レイチェルは別扱いなので、数が合わない。これが、6人目のレプリカント=デッカート説の一因になっている。実は、6人目として女性レプリカントが設定上存在していた。しかし予算やスケジュールの都合により、撮影されなかったとのこと。因みに、ファイナルカット版では人数が修正され、違和感はなくなっている。
バッティが殺したタイレル博士がレプリカントだった、という設定もあったそうだ。オリジナルの博士は、タイレルタワーの上階のカプセルの中に収まっている。しかし、デザイナーが描いたカプセルが未来的すぎるとの理由から、この設定もなくなってしまった。
『ブレードランナー』には、5つのバージョンがあるとされている。試写用のワークプリント版、アメリカ国内版、インターナショナル版、ディレクターズ・カット版、ファイナル・カット版だ。ただ、ワークプリント版にも試写を行った地域毎に微妙に内容が異なり、それぞれの試写の反応を見て映画会社が残虐シーンの削除などをスコットに指示している。1992年にディレクターズ・カット版が公開されたが、実はこのときスコットは『テルマ&ルイーズ』の制作で忙しく、他のスタッフが主体となって進められたとのことだ。
巻末には、関連するウェブサイトや原作者フィリップ・k・ディックの他の映画化作品を紹介するなど、2007年増補版として情報の補完も怠っていない。著者は可能な限り出演者や制作者へのインタビューをおこなっていて、2007年時点では鬼籍に入った人も少なくないそうだ。
日本語の看板が乱立する退廃的な街並みは、リドリー・スコットが新宿歌舞伎町をモデルに作り上げた(やはりスコットが監督した『ブラック・レイン』も、本来は歌舞伎町で撮影したかったとのこと。しかし撮影許可が降りず、代わりに名乗りをあげた大阪での撮影になった)。デッカードと「2つで充分」のやりとりをするうどん屋の店主は、日系人だそうだ。
ハードカバーで600ページ以上あり、辞典のように分厚く重く、持ち運びには適さない(しかも高額だし)。しかし、読み応えは充分すぎるほどある。ブレードランナーファンのはしくれとして、この本が自宅本棚に収まっているのは、ちょっぴり自慢だ。
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