坂本龍一『Ryuichi Sakamoto Trio World Tour 1996』
1996年の坂本龍一のトリオ・ワールドツアーより、オーチャードホール公演の映像を観た。タイトルの通り、バイオリンのエバートン・ネルソン、チェロのジャキス・モレレンバウム、そして坂本のピアノという編成だ。
セットリストは、比較的ポップで親しみやすい。『The Sheltering Sky』『Little Buddha』など、聞き覚えのある映画音楽が披露される。『Merry Christmas Mr.Lawrence』のとき、坂本はMCでデンマークのロスキルド・フェスに出たときタテノリになったと話していた。
いくつかの曲では、坂本が歌っていた。個人的に何度かライヴを観させてもらったが、歌う坂本に巡り合うのとはなかった。ymoでコーラスしていたのにも驚かされたが、ここではそれ以上のインパクトを受けた。
『High Heels』のインプロヴィゼーションでは、ピアノの弦に直接触れたり、席を離れてピアノのボディを拳でコンコン叩いて音を出したりするという、かなり実感的なパフォーマンスをやっていた。ギターのボディを叩くアーティストを観たことはあるが、ピアノのボディで演奏する人を観たのははじめてだ。
終盤には『Thousand Knives』、アンコールでは『The Last Emperor』と、耳馴染みのある曲が続く。そして、テンポの早い『Tong Poo』で場内は総立ちになった。前半のクラシックに寄った演奏とは真逆のテンションだ。
このライヴが1996年8月に行なわれたということに、坂本の先進性を感じさせる。上記の通りロスキルドフェスに出演しているが、日本でフジロックがはじまったのは翌1997年だ。当時、日本にはなかったが海外では当たり前のフェス文化に、既に足を踏み入れていた。
そしてこのライヴは、インターネットで全世界に生中継された。ライヴ中、坂本は何度か視聴しているであろう人に向けて呼びかけていた。Windows95が出た次の年で、通信インフラもPCの性能も今よりかなり劣る中、それでも新しいメディアを積極的に使っていく坂本の姿勢が素晴らしいのだ。
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Ryuichi Sakamoto CODA
坂本龍一のドキュメンタリー映画を観た。 311の東日本大震災の現地を訪れる場面から始ま