『コブラ大解剖』を読んだ
日本の名作マンガ・アニメをムック本として特集する、「大解剖ベストシリーズ」。寺沢武一の『コブラ』については、絶版になっていたのが、昨年の寺沢の死去を受けて再発され、入手した。
序盤のカラーでは、表紙・ポスター集を経て、物語を多角的に取り上げる。コブラ自身の能力、コブラの名言、魅力的な女性キャラクター、宿敵、仲間、メカ、そして全エピソード。ココだけで、お腹いっぱいにさせられる。
寺沢のインタビューでは、少年期から漫画家になったいきさつ、作品に込めた想い、戦略などが語られている。もともと画力はあったと思われるが、手塚治虫のアシスタントを務めたことでストーリーの組み立てを学んだようだった。ジャン=ポール・ベルモンドをコブラのモデルのひとつにしていたことも、本人が明かしている。
『コブラ』は週刊少年ジャンプで連載開始したが、歴代担当者や編集長のコメントも興味深かった。黒いいでたちにサングラスという、およそ漫画家とは思えない風貌に、みな驚かされていた。画風が繊細であるがゆえに遅筆で、書き溜めておいて掲載し、それが終わると休載、を繰り返していたとのこと。
小中学生向けのジャンプにあって、大人向けの『コブラ』は浮いていたが、単行本になると売り上げを伸ばすのが強みだったそうだ。三代目編集長は、編集長枠の作品を一本持つべきとしていて、必ずしもアンケート上位に入っては来ない『コブラ』に反発する若い編集者を退けて作品を守った。「きみの言う通りかもしれない。きみが編集長になったときに思う存分やればいい」ということばは、名言だと思う。
本書の目玉は、連載開始前に増刊号に掲載された読切の復刻だ。読切は2本書かれていて、1本目は連載第1話にリメイク。2本目は『黄金の男』編のプロトタイプだが、敵がハンマー・ボルト・ジョーではなくクリスタル・ボーイになっていた。この2本目が本書に収録されていて、単行本には未収録とのこと。連載は、この3ヶ月後にスタートしている。
『コブラ』はアニメ化もされていて、その特集もされている。コブラの声優は松崎しげる、野沢那智、内田直哉と3人が務めているが、パートナーのレディ役は一貫して榊原良子だ。レディはコブラにとってのパートナーであり母のような存在でもあるが、松崎や野沢にはパートナーとして、若い内田にはそれこそ母のような視点で接しているように思えた。
漫画家がパソコンで漫画を書くのは今では珍しくないが、寺沢その先駆者とされている。本書でも、当時使用していた機器が紹介されている。ただ、寺沢はパソコンに頼っていたのではなく、もともと持っているアイディアと画力が突出していて、それがパソコンを得ることにより更に増幅されたのではないだろうか。
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