寺沢武一『ゴクウ』
2014年、大震災後の東京。元刑事で探偵の風林寺悟空は、警察時代の同僚が次々に自殺する事件を追いかけるうち、自らも自殺に見せかけられて殺されそうになる。敵の強制催眠術がその原因で、ゴクウはとっさの判断で自ら左目を刺して切り抜ける。
ゴクウに興味を持った「謎の存在」は、世界中のコンピューターネットワークにアクセスしハッキングできる高性能な義眼と、伸縮自在な金属の棒をゴクウに与える。IT化が進んだ社会において、ゴクウはこれらを駆使して事件を調査し、解決していく。
1987年に連載がはじまった作品になる。寺沢武一というと、やはり『コブラ』が代表作で、その物量も内容も圧倒的だ。主人公のゴクウは、キャラクターはコブラとダブるところもあるが、元刑事という出自の分だけ正義感がある。ただ、一方では、仕事の依頼主はすべて女性で、関係を持つことも少なくない。
現実世界は2014年の世界をとっくに通過しているが、都市自体はそこまで極端に未来的になってはいない。本作の東京は、超高層ビルが立ち並ぶ一方、日本的なテイストをステレオタイプ化した形でミックスさせているのが興味深い。従来の地名や住所は、そのまま活かされているようだ。
そして、なんと言っても義眼だ。世界中のコンピューターを自由に操れるハイテク機器になっていて、電脳化によるネットの世界を表現した『攻殻機動隊』や、CIAによって作られた最強スパイであるジェイソン・ボーンの『ボーン・シリーズ』を思い起こさせる。そして、時系列的にはこれらの作品に先んじている。寺沢は、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』を読んだのかな。
最初の2話は1989年にOVA化されていて、それも観たことがある。ほぼ原作に忠実だったと記憶していて、主題歌は葛城ユキが歌っていた。今年になって、日本語対応のブルーレイがリリースされたそうだ。
ワタシが読んだコミックは全3巻になっていて、明確に完結はしていない。「謎の存在」の正体も、全く描かれていない。『コブラ』と同じく、寺沢には続きを書く構想があったのかもしれない。