雁屋哲原作・池上遼一作画『男組』
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池上遼一
青雲学園を支配し、その勢力を他校にまで拡大して、理想社会を作る野望を持った神竜剛次。神竜を止めるべく、父親殺しの罪状で少年刑務所から来た流全次郎。流は、少刑の仲間である五家宝連と共に立ち向かい、神竜は、部下の四天王や朽木組四代目を腹心に据えて迎え撃つ。
流は拳法の達人、神竜は日本刀の達人で、ふたりは何度も激突。神竜は、非情の精神を欠き詰めが甘い流に対して、常に優位に立つ。流は一時は北海道の軍艦島刑務所に追放されるが、父の友人南条五郎との邂逅や五家宝連のサポートもあり、島の脱出に成功する。
神竜をバックアップし続けてきた影の総理は、神竜を見限る。影の総理は戦時中に満州でアヘンを栽培し、終戦の混乱にまぎれて金塊に替え、豊富な資金を使って戦後の日本政治を裏から支配していた。終盤は学園紛争の枠を超え、三つ巴の抗争にまで発展する。
1974年から1979年まで、週刊少年サンデーに連載されていた作品だ。同時期には、小山ゆう『がんばれ元気』、楳図かずお『まことちゃん』、高橋留美子『うる星やつら』などが連載されていた。当時は青年誌が少なかったこともあるが、改めて見ると雑多なジャンルの作品が共存。中でも、『男組』は異彩を放っていたと思わされる。
雁屋哲は『美味しんぼ』の原作が代表作だが、『男組』は原作者として初期に手がけた作品のようだ。自分の子供には小さい頃には伏せておき、高校生になった頃に見せたところ、感激されて父親としての株が上がったとのこと。作画の池上遼一にとっては、代表作のひとつになる。
流の精悍な顔つきや拳法を駆使するカッコよさ、少刑では上下関係を嫌い対等な兄弟分になろうと呼びかけて仲間をまとめる統率力など、主人公としては充分すぎる魅力を備えている。非情の精神を欠くことは、神竜だけでなく南条にも指摘されるが、それは物語を通して克服すべき課題になっていたと思う。
神竜は、流とは敵対してはいるが、極悪非道の限りを尽くしているわけでもないことが、読んでいくうちにわかってくる。極端な選民思想を持っているが、神竜なりの主義主張であり、目指すべき理想がある。その思想こそ、一時は自分の後継にと考えていたものの、影の総理が危険視し排除する決意をさせた要因だった。
五家宝連の伊庭・岩瀬・大杉・高柳・長浜は、それぞれの能力に長けていて、そして流と志を同じくする。関東番長連合総長の堀田英盛、乞食番長こと倉本、もとは神竜組四天王のひとりでありながら戦いを経て流についた大田原、青雲学園の山際涼子、少刑所長の宮城、上述の南条など、流をとりまくキャラクターには、いずれも熱い血が流れているのが感じられる。
しかし、抗争の中で無傷でいられるはずもなく、仲間たちが次々に命を落とす。岩瀬と大杉、南条は、中盤で死亡。そして終盤では、影の総理の命を受けた機動隊が、神竜を、そして流たちを追い詰める。朽木は身を呈して神竜をクルマに乗せ、自分は囮になって一斉射撃を浴びる。
流の仲間たちの最期は、更に壮絶だ。倉本は蜂の巣にされるも、部下に命じて自らを的にさせて機動隊を引きつける。堀田は腕力で装甲車を1台ひっくり返すも、別の装甲車の突進を食らってしまう。高柳は接近戦で機動隊員の銃撃を腹部に受けるもヌンチャクで振り払い、俺という個人が倒れても最後に俺たちは勝つと言い放ち、立ったまま絶命。この辺りはリアルタイムでサンデーで読んでいて、ものすごい描写がされていると子供ながらに感じていた。
流と神竜の決着戦は、戦いの中で互いの素性・秘密を明らかにするという、ことばを交わしながらの攻防になった。流は父親殺しの真相を、神竜は幼少時に目の当たりにした地獄を語った。結果、流が勝ちはしたが、勝ったというよりも神竜が勝ちを譲り、流に影の総理打倒を託した格好になったように思えた。そして、流は一団の指揮を伊庭に委ね、単身で影の総理を処刑すべく、園遊会に潜り込む。
『サンクチュアリ』『HEAT -灼熱-』では、池上の画力は完成の域に達している。対して『男組』では、序盤はまだ荒さが目立っていて、この2作品を読んだ後に読んでしまうと、その荒さが気になってしまうのではないかと思っていた。がしかし、全編を貫くエネルギーの強大さは色褪せることなく圧倒的だし、各キャラクターの生きざまは、時代性を帯びているにも関わらず古くなっていない。
このサイトでは何度か書いているが、『男組』はワタシの最も好きなマンガだ。
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