『坂本龍一 本当に聴きたい音を追い求めて』を読んだ
ミュージックマガジンの増刊で、坂本龍一の特集号を読んだ。もちろん坂本の死を受けての編集で、近年の特集を集約した構成にすることによって活動を総括しているのが興味深い。
冒頭は、音楽評論家小野島大による追悼文だ。個人的にこの人には70年代パンクロックのイメージがあり、坂本とは結びつかなかった。しかし、氏は長年に渡り坂本を追い続けていたようで、淡々としていながら熱を帯びた文体は、導入にふさわしかったと思う。
2009年のアルバム『Out Of Noise』リリースにリンクした特集では、坂本のインタビューを取りつつ、この時点でのディスコグラフィー、ヒストリーとなっていて、強いて言えばココが最も掘り下げたキャリア総括になっている。
次が2016年の『千のナイフ』再発にリンクした特集だが、2009年からこの間までに坂本は咽頭がんを患い、そして復帰(ymoの再々結成もされている)。音楽活動のみならず、社会活動も活発になってきた坂本を捉えている。続く2017年はアルバム『async』の特集で、ページ見開きの片面がジャケットのカラーになっているのがユニークだ。
2022年は坂本のトリビュートアルバム特集で、参加したアーティストからデヴィッド・シルヴィアンや大友良英らのインタビューを掲載。その後がレコードコレクターズの『音楽図鑑』再発特集で、オリジナルがリリースされた1984年の動向が興味深い。
ここまででもかなり読み応えがあったが、個人的にはこの後がツボだった。1970年代後半の記事の復刻で、コピーにつき紙面は粗いが、中身は超貴重だ。鈴木慶一やホルガー・チューカイとの対談、クラフトワークに対する持論など、若き坂本があまり若さを感じさせず、冷静で淡々と語っているのがとても興味深い。
中でも、坂本がデヴィッド・ボウイにインタビューしている記事にぶったまげる。79年2月号掲載となっていて、ということはボウイが来日した78年12月のときの取材と思われる。このときのボウイは、あの『Low』『Heroes』を引っ提げてのツアーだったはず。このときのボウイに、YMOデビュー直後の坂本がインタビューするってどういう状況!?と思ってしまう。
ふたりのやりとりも独特の間があって、インタビューというより対談で意見交換しセンスを共有しているように見える。音楽評論家がアーティストの内面を引き出そう引き出そうとしているインタビュー(この姿勢を否定はしないが)とは大きく異なり、ゆったりとした空気感が感じられる。ふたりが突出した表現者だからというのもあるが、読んでいて楽しかった。
坂本龍一追悼書籍は、ほかにも出版されている。個人的にもいくつか入手しているので、それらにもいずれは目を通す予定だ。
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