『パリタクシー』を観た
タクシードライバーのシャルルは、パリ郊外から92歳の老女マドレーヌを客として乗せる。彼女は自分の人生を話し出すが、生活が苦しく免停寸前で苛立っているシャルルは、最初のうちは話しかけられても仕方なしに対応する程度だった。しかし、パリ市内の彼女ゆかりの地をめぐるうち、彼女の壮絶な人生が見え隠れする。
ミニシアター系のフランス映画で、一部でかなり話題になっていた。マドレーヌの女優さんが実際に高齢なこともあり、タクシー内の撮影はすべてスタジオで、窓から臨めるパリ市内の風景はCG合成と、テレビで放送されていたのを観た。なるほど、走るタクシーを引きで撮影しているときは運転席のシャルルは確認できるが、後部座席は見えないようになっていた。
エッフェル塔や凱旋門、セーヌ川、オペラ座、改修中のノートルダム大聖堂など、パリ市内の名所も確認できる。欧米では昨年公開されているが、撮影時期はコロナ禍前だったのか、それとも明けだっただろうか。
個人的に、2019年から2020年にかけての年末年始にはじめてパリを訪れた。そのときは電車やバスがストライキ中だったので、移動手段はほぼタクシーだった。そのときの自分の体験も、脳裏によみがえってきた。
マドレーヌの数奇にして壮絶な人生に触れ、いつのまにかシャルルは彼女に魅了されていた。道中ふたりで食事したり、シャルルが赤信号を見落として警察に止められた際、マドレーヌがひと芝居打って違反切符を切られるのを阻止したりと、中盤以降の境遇や世代を超えたふたりの連帯感は微笑ましく、そして羨ましい。
ラストは切なくも感動的で、話題になるのも納得だ。マドレーヌ役の女優は実年齢94歳の歌手、シャルル役の俳優は『ミックマック』にも主演していたコメディアンとのこと。
それにしても、『パリタクシー』はあまりにも直球すぎる邦題だなと思い、原題を調べてみた。『Une Belle Course』となっていて、Google翻訳では「素敵なレース」と出てしまったが、検索してみたところ「ある美しき旅路」という意味のようだ。つまり、ふたりによるタクシーでの旅路と、マドレーヌの92年の人生の旅路を指しているのだと思う。
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