デヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『ムーンエイジ・デイドリーム』
トッド・ヘインズ監督の『ヴェルヴェット・ゴールドマイン』も、伝記映画『スターダスト』も、曲の使用許可が下りなかった。それは、公式ドキュメンタリー『ムーンエイジ・デイドリーム』のためだ。欧米では昨年公開されたが、ついに日本でも一般公開された。
ほぼ全編に渡ってボウイの曲が流れ、ナレーションもすべてボウイの肉声だ。冒頭が宇宙人イメージの凝縮で、すかさずジギー・スターダスト期になる。映画化もされたライヴ映像からの演奏シーンは、これまで封印されてきたジェフ・ベックがギターを弾く姿が解禁。ボウイ、ミック・ロンソン、ジェフ・ベックの3人が同じステージに立っているのは、奇跡的な光景だ。
いちおう時系列順に進行しているが、演奏シーンやPVは時間軸にまたがってミックスされている。何年にアルバムをリリースしたとか、誰と出会った・組んだといった、音楽活動や人脈描写は少ない。強いて挙げれば、70年代後半にロサンゼルスからベルリンに移住した際、ブライアン・イーノを呼び寄せたことを自ら明かしたくらい。レコーディングには、ロバート・フリップやエイドリアン・ブリューらの姿も確認できた。
ボウイのナレーションは哲学的で、ここではボウイがアーティストとしてどのように生きようとしたかに、重きを置いている。テレビ番組で両親について聞かれた質問に答えるシーンはあったが、ボウイに大きな影響を与えたとされる兄や、最初の妻アンジーと息子ゾウイについては、ノータッチだった。その代わり、イマンとの出会いや結婚については触れられている。
ボウイは、映画や舞台にも出演する、俳優としての顔もある。ここでは、『地球に落ちてきた男』『ラビリンス/魔王の迷宮』のほか、舞台『エレファントマン』や、パントマイムのパフォーマンス映像もあった。
ボウイがインスパイアされたであろう、数多くの映画や映像があちこちに散りばめられていた。エンドロールで確認しようとしたが、多すぎたのとクレジットが切り替わるスピードが早かったので、目が追いつかなかった。
日本がらみの映像も、いくつかあった。来日記者会見、新幹線の車窓からサインを求めるファンを臨むショット、『ヤングおー!おー!』に出演したときの音声、映画『戦場のメリークリスマス』の断片など。京都滞在時の写真やCMの映像は、去年京都で観た鋤田正義の写真展で観たことが、脳裏によみがえってきた。
不満もある。ボウイの活動で重要と思われる局面が、いくつもスルーされている。最後に描かれているのは、90年代半ばの『Outside』ツアーのライヴだ。なので、『Earthling』リリースおよびボウイをリスペクトする多くのアーティストと共演した97年50歳アニバーサリー公演も、遺作にして最後の傑作『Blackstar』リリースとその2日後の死も、全く触れられていない。87年の、ベルリンの壁のすぐそばでのライヴも、スルーされていた。
『Low』『Heroes』期のライヴパフォーマンスは、嬉しかった。画質的にも問題なかったので、ぜひライヴ映像としての単体リリースを望みたい。
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