ビョーク(björk : cornucopia)@東京ガーデンシアター
唯一無二ということばは、ビョークのためにある。先週「orchestral」と題されたライヴを観たときに、そう感じた。そして今回、「cornucopia(コーニュコピア)」のライヴを観たことで、その想いを一層強くした。
予定を10分ほど過ぎたところで、客電が落ちた。ステージは、アルバム『Fossora』ジャケット下部の花や果実が投影された簾状の幕で覆われていた。向かって左の袖から日本人男女20人が幕より前に現れ、『さくら』など3曲を生声で合唱。意表を突かれたが、このライヴは只ならない、スペシャルなライヴになる予感が既に漂った。
幕越しに演奏が始まり、7人の女性フルート、ハープ、ドラム、キーボードという編成が見えてくる。そしてビョークの歌声が響き、幕には映像が投影される。少しずつ幕が開き、やがてステージセットが明らかになった。中央が、貝状のひな壇になっていた。
ビョークは白を基調としたヴォリューム感のある衣装で、インナーにブラウンのボディスーツをまとっている。デコレーションされたマスクで、目もとから頭部までを覆っていた。マスクはフルート隊もつけていたが、ひとりひとり微妙にデザインが異なっていた。
この日のワタシの座席は、アリーナ4列目の中央ブロックで、とにかくステージが近かった。過去何度かビョークのライヴを観てきたが、間違いなくベストポジションだ。なので、ステージを見るかバックドロップの映像を見るか、幕に投影された映像を見るか。いや、当然だがやっぱりビョーク本人を最優先に見た。向かって右前方にはコンパクトな花道があって、曲によりビョークはそこまで出てきて熱唱した。更に彼女との距離が近くなって、理性が吹っ飛びそうだ。
セットリストは『Utopia』を軸にしていて、ドラムのシンセビートをベースにし、フルート隊によるファンタジックな音色がミドルを担い、サンプリングも駆使し、そしてビョークの歌声が圧倒的に迫ってくる。小柄な身体ながら、溢れ出るエネルギーの凄まじさは尋常ではなかった。冒頭にも書いた「唯一無二」のことばが、何度自分の脳内をよぎったことか。
中盤で、簾状の幕に英語と日本語のメッセージが表示された(近すぎて読めなかった)。そして、ステージ前方上部に設置されていた金属のアーチが花道まで降りてきた。フルート隊のうち4人がそこに陣取るが、アーチにはなんとフルートが組み込まれていて、それで演奏。彼女たちに囲まれた状態で、ビョークは歌った。そして、向かって左に日本人コーラス隊が現れて、聴き覚えのあるコーラス。『Hidden Place』 だ、女性コーラスの何人かは、フルート隊のに似たマスクをつけていた。
女性コーラスは、終盤でもステージに加わっていた。単なる前座かと思いきや、ビョークのステージへの貢献度は決して少ないものではなかった。フルート隊はダンスやコーラスもこなしていて、その多彩な力量はさすがビョークのステージに立つだけのことはあった。何人かのフルートは、ヘアピン状の特殊なフォルムになっていた。キーボーディストはトロンボーンもこなし、ドラマーは鉄琴も担うほか、水槽に浮かぶボールをスティックで打ち込みビートを発していた。
本編を『Tabula Rasa』 で締めると、インターバル中に簾の幕に環境活動家グレタ・トゥーンベリのメッセージが(こちらも、ステージに近すぎて日本語訳が読めなかった)。そしてアンコールとなり、『Future Forever』の後銀ラメのバルーンっぽい衣装に替えていたビョークがメンバー紹介。オーラスは『Notget』で、少し意外なセレクトに感じた。
セットリスト
SE Family
The Gate
Utopia
Arisen My Senses
Ovule
Atopos
Show Me Forgiveness
Isobel
Blissing Me
Body Memory
Hidden Place
Mouth's Cradle
Features Creatures
Courtship
Pagan Poetry
Losss
Sue Me
Tabula Rasa
アンコール
Future Forever
Notget
コーニュコピアとは、ラテン語で「古代ギリシア・ローマ世界において、収穫や繁栄、精神的な豊かさに関連する神々の象徴」という意味だそうだ。映像では、人間だけでなく、動物や植物、昆虫、異形の生物などを表現していたように見て取れたが、演者たちのパフォーマンスも少しも劣らず、より生々しかった。
座席に恵まれたことだけでなく、総合的に考えて個人的に今まで観てきたビョークのライヴのベストだ。しかしそれだけでなく、今年この後観るライヴのうち、今夜の公演の足元に及べるライヴが、どれだけあるだろうか。
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