北陸代理戦争（1977年）

福井市の富安組若頭の川田は、競艇の利権譲渡の約束を破った組長の安浦をリンチにかける。怯えた安浦は弟分の万谷を使い、大阪・金井組の金井に相談。金井は、手打ちの名目で北陸進出を目論む。川田は万谷を襲撃し、居合わせた金井組の組員を殺害して、刑務所に服役する。

数年後に川田が出所したときには、金井組が勢力を拡大していた。川田は金井組をよく思わない浅田組の岡野に話を持ちかけ、後ろ楯になってもらうことを取りつける。岡野の通報によって金井は逮捕されるが、今度は浅田組がのさばり始めると、川田は岡野を牽制する。

深作欣二監督の東映やくざ映画だが、となると、どうしたって『仁義なき戦い』が思い浮かんでしまう。調べてみると、『新・仁義なき戦い』シリーズとするつもりが、菅原文太の降板などによってその看板は使えなくなったとのこと。しかし、劇中に漂う空気感やエネルギーは継承されているし、殺害シーンではあのテーマ曲が断片的にだが流されている。

川田を松方弘樹、川田と行動を共にする竹井に伊吹吾郎、金井を千葉真一、岡野を遠藤太津朗、浅田組幹部を成田三樹夫と、この面々は『仁義なき戦い』とかぶる。千葉真一は存在感の大きさの割にあっさりと退場してしまった感があり、少し残念。竹井の役は渡瀬恒彦で撮影されていたが、事故によるケガのため急遽交代し急ピッチで撮影されたとのこと。

安浦が西村晃、万谷がハナ肇、川田の弟分だったがやがて金井組に身を置く隆士が地井武男。この人たちにはヤクザとは別の役柄のイメージがあるが、『新・仁義なき戦い』シリーズには出演していたようだ。西村晃は、組長だがあまりカッコいい役どころではないので、よく引き受けたなと思ってしまう。

男性上位になりがちな世界だが、本作には女の戦いもある。川田の女で隆士の姉きくは、川田の服役中に万谷に奪われるが、やがて川田の意図もあり岡野の女になる。ふたりには信子という妹がいて、後に川田の女になる。隆士は出所後の川田を挑発するため弟分に信子を襲わせるが、川田に救われた信子は兄である隆士を刺し殺す。きくは野川由美子、信子は高橋洋子という人が演じていて、しぶとく生き抜くさまに圧倒される。

川田、金井、安浦、岡野には、モデルとなった実在の人物がいたそうだ。本作は1977年2月に公開されたが、その2ヶ月後に川田のモデルになった人が射殺されてしまったとのことだ。