ピクシーズ(Pixies)@横浜ベイホール
2020年2月に来日公演が決まっていたピクシーズだが、折しもコロナ禍による感染拡大のため中止に。それから2年9ヶ月が経ち、再来日が実現。意識はしていなかったが、奇しくも、前回も同じく横浜ベイホール公演のチケットを押さえていた。
ほぼ予定時間通りに客電が落ち、SEがしばし流れた後に4人が登場。パズ・レンチャンテインは向かって右に、ブラック・フランシスがセンター、ジョーイ・サンティアゴが左、デイヴィッド・ラヴァリングは少し高めにセッティングされたドラムセットに収まり、インストの『Cecilia Ann』でスタートした。
おとといの初日大阪、昨夜名古屋の情報をネットで拾うにつけ、MCなしでノンストップで演奏しまくるとのことだったが、まさにそれが目の前で繰り広げられた。曲間のインターバルは最小限にとどめ、ブラックやジョーイがギターを交換するときでも3人のうち誰かが必ず音を発していた。
近年はフェスやイベントでの来日だったので、単独公演で、しかも1,100人ちょっとのライヴハウスの密閉感の中で、ピクシーズの音圧を浴びられることの快感と言ったらない。そして、序盤から『Wave of Mutilation』『Gouge Away』『Caribou』『Cactus』『Monkey Gone to Heaven』『Hey』と、全く容赦がない。
デイヴィッドはドラムセットの叩き分けをかなり明確にしていて、ビートの切れ味が鋭かった。ジョーイのギターは個人的にかなりツボで、時にノイジーでメタリックなリフを繰り出し、原曲をライヴの場で大きく変化させている中心にいるのは、この人だと思った。メタリカのカーク・ハメットのように物言わぬギタリストの印象があるが、もっともっともっと評価されていいのではないだろうか。
ブラック・フランシスは、前回(2017年のHostess Club Weekender)観たときよりも、幾分か体が絞れているように見えた。ヴォーカルは、改めて聴くとシャウトがかなり多い。そしてギターも、その全てをジョーイが支配しているわけでもなく、この人によるソロ、リードがあって、互いに邪魔しないようにしてプレイが成り立っていた。『Velouria』のときはギターかイヤモニの調子が悪かったのか、途中で終了していた。
そしてパズだ。上下とも白(もしくはアイボリー)のいでたちで、登場したときはまさに「妖精」に見えた。細身の体にベースは重そうに見えるが、勿論難なく弾きまくっていた。単にリズムキープにとどまらず、攻めのプレイも少なくなかった。この人のリフが映えていた瞬間が、何度もあった。
中盤はミディアムナンバーにシフトし、新譜『Doggerel』からの曲もここで披露。『Vault of Heaven』『Who's More Sorry Now?』など、4曲くらい固め撃ちされたと思う。一聴すると地味な印象だが、繰り返して聴けば馴染んでくると感じている。ワタシはデラックス盤を購入して聴いたが、『Doggerel』は日本盤未発売なこともあってか、オーディエンスには今一つ浸透していないように見えてリアクションも薄く、少し残念だった。
後半も『Nimrod's Son』や『Mr.Grieves』などで攻め立てる。『Wave of Mutilation』は、今度はブラックはセミアコでテンポもスロー、つまり「UK Surf」バージョンだ。イントロからじわじわくる『Where Is My Mind?』を経て、ニール・ヤングのカヴァー『Winterlong』だ。
今年のツアーはこの曲で締めることが多く、そしてアンコールはされないと聞いていたので、これで終わりと思った。4人はステージ前に出てくるが、ここでブラックが人差し指を掲げる。どうやら、あと1曲やるぞと言っているようだ。そして、ここでついに『Debaser』が!ブラックはギターの調子が今一つだったのか、早々に自身の演奏を終えるとほかの3人が演奏を続けるのを尻目にビールを飲んでいた(笑)。
個人的に、ハイライトは2回あった。ひとつはラストが『Debaser』にシフトしたこと、そしてもうひとつは、終盤での『Here Comes Your Man』のときだった。パズがブラックとジョーイの方に歩み寄り、アイコンタクトをとった後、3人合わせてイントロをジャーンと弾いてスタート。そしてブラックがサビ前の「There is a wait so long~」を歌ったのに続いてパズが「so long~,so long~」とコーラスを入れているのを目の当たりにしたとき、パズがピクシーズに馴染み、定着してくれてよかったなあと、しみじみ思った。
約1時間50分のライヴで、30曲以上は演奏しただろうか。結成から35年以上、再結成からでも既に18年が経っている超ベテランにもかかわらず、まるで新人バンドと張り合うかのような勢い溢れる圧巻のパフォーマンスだった。ニルヴァーナやレディオヘッドにも影響を及ぼしたバンドが、未だ健在、未だ現役なのだ。
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