野性の証明(1978年)
東北の山奥で訓練中だった自衛隊員の味沢は、山村で起こった殺人事件に遭遇し、自らも殺人を犯してしまう。その後自衛隊を除隊した味沢はやがて羽代市に住みつき、保険外交員として働いていた。味沢には頼子という養女がいて、彼女は山村の事件のただ一人の生き残りだが、その恐怖体験から記憶を無くし、また不思議な予知能力を備えていた。羽代市は実業家の大場が牛耳っていて、市はおろか警察も暴力団も羽代の傘下にある。大場の不正を暴こうとする女性記者の朋子は味沢と知り合い、また山村の事件を担当していた刑事の北野は、捜査本部解散後も単独で味沢を追いかける。
原作は『人間の証明』の森村誠一で、複数の話が同時進行し、それらが複雑に絡み合うという展開はさすがである。しかし、この映画は原作を忠実に再現したのではなく、後半は映画オリジナルの展開になっている。原作は頼子が記憶を取り戻し、自分の父親を殺したのが味沢であることを指摘し、味沢が逮捕されて終わっている。しかし映画では、微妙な関係ながらも味沢・頼子・北野の3人での逃走劇となり、自衛隊が訓練にかこつけて3人を追い詰めるという格好になっている。前半こそ社会派だが、後半は戦車やヘリが容赦なく3人を追い詰め、そこで味沢の眠っていた「野性」が表面化するのだ。
『人間の証明』の映画版は学生のときに観ていて、再見してもだいたいのアウトラインは覚えていた。が、『野性の証明』を観たのはたぶん中学生のとき以来で、象徴的な場面をいくつか覚えてはいたものの、どんな人が出演していたかというのはほとんど認識していなかった。ので、豪華すぎるキャストに改めてびっくり。味沢を高倉健、頼子を薬師丸ひろ子、朋子を中野良子、北野を夏八木勲というのが主なキャスト。大場を三国連太郎、その息子に舘ひろし、自衛隊の幹部に丹波哲郎や鈴木瑞穂、味沢の上官に松方弘樹、味沢の監視役の男に原田大二郎、暴力団には成田三樹夫や梅宮辰夫、朋子の上司に田村高廣らが、脇を固めている。田中邦衛も出番はわずかながら出ているし、エンドロールを見ていると自衛隊員として阿藤海(快)も出ていたようだ。
薬師丸ひろ子は角川映画のオーディションでグランプリになり、この作品がデビュー作だった。演技の上手い下手はともかく、その存在感は既に大きく、輝きを放っていたのに改めてびっくりした。ワタシの記憶では、彼女が頭角をあらわしてくるのはその後の『翔んだカップル』『ねらわれた学園』で、それが『セーラー服と機関銃』でピークに達するというもので、『野性の証明』ではデビューを果たした作品という印象しかなかったのだ。
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