蘇える金狼(1979年)
東和油脂の経理部に勤める朝倉哲也は、日中は実直なサラリーマン。しかし、夜は体を鍛え拳銃を操る別の顔を持っていた。朝倉は重役たちが私腹を肥やし会社を食い物にしている事実を知り、会社乗っ取りを計画していた。
上司の愛人京子を麻薬などで手なずけ、会社上層部の情報を得る朝倉。しかし、議員の親戚で総会屋の桜井も同じく情報を掴んでいて、上層部を揺すっていた。重役たちは興信所を雇って桜井を退けるが、今度は興信所の石井が重役たちを揺すりにかかる。
角川映画、大藪春彦原作、松田優作主演といえば、本作と1980年公開の『野獣死すべし』がセットのイメージがある。しかし、『野獣』が原作から大きく離れて独自のストーリーになっているのに対し、本作は一部を映画用にチューニングしてはいるものの、基本的には原作を踏襲している。松田優作にとっての、アクションもののピークと思える。
冒頭の、現金輸送バイクを襲って強奪するシーン、ボクシングジムでトレーニングに励むシーンなどは鮮烈。極めつけは麻薬の取引でヤクザと対決するシーンで、革ジャンに身を包み、颯爽と走り抜けながら銃をブッ放すさまは、長身で手足が長い身体能力が最大限に映えている。
松田優作より前のアクション俳優といえば、千葉真一だった。桜井を演じているのが千葉だが、ここではアクションは控え気味、コミカルなキャラクターになっている。ふたりが直接対峙するシーンはなく、微妙にすれ違っているのは残念。その代わり、石井を演じる岸田森の怪演ぶりがすごい。
京子を演じているのが風吹ジュンで、個人的にはこの役のイメージが強すぎるのか、ヌードを辞さない女優さんという認識になり、後の作品で母親役などを見るにつけ、複雑な思いになる。松田優作に翻弄されるイメージもあったが、よくよく調べてみると、本作のほかはテレビドラマ『断線』くらいしか見つからなかった。
朝倉は原作は成功したままで完結するが、映画では京子に刺されて重傷を負ってしまう。2人で海外に高飛びするつもりだったが、その場で京子を絞め殺してひとりで飛行機に乗り、CAに意味不明のことばを発して絶命。すべてを手に入れた後、没落するラストとしている。
ラストよりも手前、会社乗っ取りに成功した朝倉が、暗闇の中でマスクを被って咆哮・絶叫しているシーンがある。初見のときは訳がわからず、そして怖かった。ただ、何度か観るうちに、すべてを手に入れ絶頂の中にいるときに、朝倉ならこうするというひとつの表現なのだと思えるようになった。あのマスクはラストにも登場するので、何らかの意味があるのかもしれない。
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