ブラックジャックによろしく
名門永禄大学を卒業し、研修医となった斉藤英二郎は、研修制度の不条理さ、医局の都合により歪められる医療、患者やその家族との葛藤などを経て苦悩し、患者を救いたいと思うがあまり何度も教授や医局と衝突する。
第一外科~第一内科~NICU(新生児集中治療室)~小児科~第四外科~精神科と、さまざまな科を経験する斉藤。そこで理想やきれいごとだけでは成り立たない現実を目の当たりにするが、同時に研修医としての自分の無力さも痛感する。
斉藤の指導医たちは、これが日本の医療の現状と受け止めつつ、それぞれに医師として生きてきた過去が当然あり、斉藤を諭しもするが、ある部分で共鳴もしている。ここの描き方が重要と思っていて、単に医療制度や医師の派閥を批判することに終始していない。
個人的には、NICU編が最初ののクライマックスと思っている。未熟児として生まれ生死も危うい双子の赤ん坊、しかも弟は障害を持つという状況に、父親は自分の子と認めようとしない。しかしこの夫婦は不妊治療をおこない、ほんとうは子供がほしくてほしくてしょうがなかった。という、なんとも複雑な状況の中で斉藤は奔走する。
その更に上を行くと思うのが、続く第四外科編だ。斉藤の指導医は無認可の新薬をがん患者に(もちろん患者の同意を得て、合法で)投与している。同僚の医師は、対照的に抗がん剤を極力投与しない治療をする。なぜ2人がこのようになったのかという過去も詳細に描かれ、主人公の斉藤以上に感情移入ができる存在になっている。また、日本の新薬承認が恐ろしく鈍いことや、新薬の検証は医師が合間を見て片手間に行わざるをえない現状もえぐり出している。
テレビドラマ化もされていて、断片的に観ていた記憶がある。今回読みながら、この役は誰が演じていたかというのも並行して調べていた。主人公斉藤は妻夫木聡、NICU編の父親は吉田栄作、母親は横山めぐみ、指導医は笑福亭鶴瓶。第四外科編はスペシャルで放送されたらしく、指導医は阿部寛、同僚は石橋貴明だった。なるほど。
物語は精神科編にていったん完結するが、実は『新ブラックジャックによろしく』という続編がある。こちらは移植編になっていて、それまでにも劣らない深刻な事態に直面している。なお、タイトルこそ手塚治虫の『ブラック・ジャック』に由来しているが、内容的に直接の関係はない。
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