華の乱(1988年)
歌人の師匠でもある与謝野寛に恋い焦がれていた晶子は、同僚の山川登美子を出し抜いて寛と結ばれ、子供をたくさんもうける。晶子は、ある日芝居を観た帰りに、作家の有島武郎と知り合う。晶子は、有島の亡き妻にそっくりだった。
晶子が歌人として生計を立てる一方、仕事をしない寛はやがて選挙に立候補する(結果は落選)。出馬に反対だった晶子は、農地を開放するために北海道に向かった有島の誘いに乗り、病気の子供の看病を長男たちに任せて行ってしまう。
明治から大正にかけての、実在した文化人や活動家などが登場。フィクションを織り混ぜた人間模様を描いている。
与謝野晶子:吉永小百合
与謝野寛:緒形拳
有島武郎:松田優作
波多野秋子:池上季美子
大杉栄:風間杜夫
伊藤野枝:石田えり
島村抱月:蟹江敬三
松井須磨子:松坂慶子
山川登美子:中田喜子
なんとも豪華なキャストで、話題性としても充分過ぎた。吉永小百合と松坂慶子が共演したのは、この作品くらいではないだろうか(ただし、2人が同じフレームに収まるショットはない)。池上季美子は、当時テレビドラマの主役級を相次いでこなしていた。中田喜子は、今でこそ渡鬼ファミリーのイメージだが、このときは『連想ゲーム』司会者のイメージが強かった。女優としてのこの人を観たのは、たぶん本作がはじめてだ。
当時劇場で観たときは、松田優作を中心に観ていた。アクション俳優だった優作が、性格俳優も板につくようになったと思った。この人の遺作は『ブラック・レイン』だが、本作はそのひとつ前の作品だった。当時は知るよしもなかったが、この撮影中から既に癌に冒されていたそうだ。劇中では、有島は大杉を支持しそれとなくバックアップするが、『それから』での優作と風間の役での関係性を思うと、嬉しくなった。波多野秋子の夫役は成田三樹夫で、優作とは『探偵物語』などで共演。優作は1989年に亡くなるが、成田もその役半年後に亡くなっている。
吉永小百合は、主演100本目の『つる』に続く出演だった。与謝野晶子は強気な人だったと現国の先生に教わった記憶があるが、清楚なイメージがどうしても拭えない吉永とは、今一つ合っていないように思えた。緒形拳や松田優作とのラヴシーンはなぜか記憶になく、今回改めて観て驚いた。監督は深作欣二で、緒形拳が主演した『火宅の人』に続く文芸路線だった。
当時劇場で観たときは全く思わなかったが、タイトルの「華」は、やはり女性のことを指しているのだろう。与謝野晶子、波多野秋子、松井須磨子、山川登美子、伊藤野枝と、この時代の女性たちの生きざまこそが、描きたかったことだと思う。
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