プリンス(Prince)『Sign ‘O’ The Times(Super Deluxe Edition)』
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最終更新日:2023/02/12
CD パリ, プリンス, マイルス・デイヴィス
プリンスのアーカイヴシリーズが続いているが、ついに真骨頂とでも言うべき作品が2020年秋にリリース。オリジナルは1987年で、キャリア最高傑作の呼び声も高い『Sign ‘O' The Times』だ。ワタシが入手したのは、CD8枚プラスDVDのスーパーデラックスエディションで、とてつもない物量だ。
ディスク1と2は、オリジナル盤のリマスター。ディスク3は、シングルおよびカップリング曲集になる。カップリング曲の一部はベスト盤に収録されているが、本邦初音源も少なくない。ここまでは、まだ馴染みの感触がある。
ディスク4~6の3枚が秘蔵音源で、本ボックスのハイライトだ。ディスク4冒頭の『I Could Never Take The Place Of Your Man (1979 Version – 2020 Remaster)』は、カッコ書きの通りオリジナルは1979年で、セカンドアルバムをリリースした年になる。なるほど、キーボード前面の当時のテイストになっていて、これが8年後に生まれ変わって日の目を見ていると思うと、とても感慨深い。『A Place In Heaven』は、ディスク4にはプリンスのヴォーカルバージョン、ディスク6にはリサ・コールマンのヴォーカルバージョンが収められており、聴き比べる楽しさがある。同じくディスク4には『Nevaeh Ni Ecalp A』という曲があって、スペルが逆読み、そして音は逆再生と思われる。
他のアーティストのために書いた、そして諸事情により日の目を見なかった曲も、いくつかある。『Can I Play with U?』では、マイルスをフィーチャー。マイルスのアルバムに入る予定が、他の曲との相性が合わなかったとのこと。『Emotional Pump』はジョニ・ミッチェルに贈ったが、ジョニは歌詞がしっくり来なくて結局お蔵入りになったそうだ。ディスク6終盤の数曲は、ボニー・レイットのために書いたそうだ。
ディスク7と8は、1987年6月のオランダ公演のライヴ音源。同一会場で4日連続でおこなった公演のひとつで、映画『サイン・オブ・ザ・タイムズ』に使われているライヴ映像の多くはオランダ4公演からだそうだ。曲間に観客の歓声は聞こえてくるものの、ライヴならではの一体感や熱狂ぶりはなかなか感じにくい。これは、ハイペースで音楽を作りライヴをおこなう、プリンスのイノヴェーターぶりの表れだと思う。
ディスク9のDVDは、1987年12月31日にペイズリー・パーク・スタジオで行われたライヴ映像だ。ウェンデイ&リサと入れ替わるように、シーラ・Eをドラムおよびパーカッションに、そしてダンサーとしてキャットを擁している。シーラ・Eの自在なプレイ、キャットの激しいダンスは映像でこそ映えてきて、貢献度の高さが実感できる。
日時的にカウントダウンライヴになり、『1999』では『蛍の光』のリフを組み込んでいる。アンコールのラストは『It's Gonna Be A Beautiful Night』だが、なんと30分にも渡るジャムセッション状態。そして、マイルス・デイヴィスがふらっと現れてトランペットを数分吹き、そしてまたふらっとステージを後にしている。プリンスとマイルスの公式な共演は、このときだけとのことだ。
ブックレットに掲載されている、ライナーノーツも多数。レニー・クラヴィッツによる感動的なコメントを導入とし、以降複数の関係者によって、制作の裏側がかなり詳細まで踏み込まれている。レコーディングの多くは86年におこなわれているが、その合間には映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』の撮影で頻繁にパリに行っていた。プリンスはデモをウェンデイ・メルヴォワンとリサに渡し、アレンジを依頼。彼女たちへの、プリンスの信頼の厚さが伺える。
1986年にはアルバム『Parade』のツアーもしていて、9月には初来日公演が実現している。プライベートでは、ウェンデイの双子の妹スザンナと婚約していて、コーラスに参加させたり、曲によっては彼女もアイディア出しに関与したりしていた。しかし、プリンスはツアー中にザ・レヴォリューション解散を決め、またスザンナとも破局している。ディスク4~6の未発表曲集は、ほぼレコーディング順に配置されていた。
『Parade』の次のアルバムとして、プリンスは『Dream Factory』というアルバムを構想していた。しかし、ザ・レヴォリューション解散に伴い頓挫。続いて、別人格「カミール」名義で同名のアルバム『Camille』をまとめようとするも、こちらも頓挫。すると今度は、『Dream Factory』の数曲と『Camille』の大半の曲を合わせ、更に数曲を追加して3枚組の『Crystal Ball』とし、ワーナーに持ちかける。しかし、長すぎると言われたため、数曲をカットした上にシーナ・イーストンを呼んで『U Got The Look』を追加し、2枚組にまとめたのが、世に出た『Sign』とのことだ。
音源や映像の物量やクオリティーもさることながら、ブックレットの読みごたえも圧巻で、大袈裟でなく、個人的にこれまで読んだどの作品よりも秀でている。1987年に世に出た『Sign』は今でも最高傑作だが、2020年に全貌を現した本作は、豪華盤としての最高傑作になると思う。
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