上條淳士『TO-Y』
高校生でパンクバンドGASPのヴォーカル藤井冬威(TO-Y)は、従姉妹でアイドル歌手の森が丘園子にけしかけられる形で、アイドル哀川陽司の友人のライブを乗っ取る。それが哀川とマネージャー加藤か志子の目に留まり、加藤にスカウトされて、哀川のバックバンドEDGEのベーシストとしてプロデビューする。
長身でルックスもいいTO-Yの存在は、ステージでも哀川を食う瞬間があり、哀川もTO-Yを強く意識する。か志子は元の事務所に提携する子会社の代表となり、専属マネージャーになってTO-Yのソロデビューに動き出す。芸能界ならではの罠や策略に次々に直面するTO-Yは、その都度予想だにしないやり方で乗り越え、ファンだけでなく業界人をも唸らせる。
80年代に少年サンデーで連載されていた人気マンガで、上條淳士の代表作であると共に、今なお古びることなく輝いている作品だ。サンデーコミックスは全10巻だったので、連載期間は約2年くらいだろうか。その後も、文庫版やコンビニ販売用、愛蔵版などが発売されている。
魅力は、何と言っても絵そのものだ。洗練された絵柄は、他のマンガ家、他の作品ではまず見ない唯一無二のタッチで、マンガというよりアニメのセル画を見ているのではと錯覚してしまう瞬間がいくつもある。これ、手書きだろうか。
一方、ストーリーはかなりドロドロしている。売れるためなら手段を選ばず、利用できるものは全て利用するという芸能界の裏側を表現していて、TO-Yも、そして哀川も、翻弄される。TO-Yは芸能界に執着していないが、哀川はアイドルを脱皮しロックアーティストとして成り上がろうとする。主人公はTO-Yだが、哀川とのダブルキャストでもあると思うし、感情を表に出さないTO-Yよりも、苦悩しあがく哀川の方が感情移入しやすい。
作者の上條は、TO-Yのモデル(の一部)がデヴィッド・ボウイであることを明かしている。哀川のモデルはもちろん吉川晃司で、吉川側に接触することもなく勝手に描いていたそうだ。鮎川誠似の凄腕ギタリストや、秋元康的な構成作家なども登場する。
2020年に連載35周年を迎え、書き下ろしの前日譚が公開された。TO-Yの両親が離婚し、9歳の TO-Yが父に連れられて軽井沢を出て東京に向かう場面で、園子は自分もいつかは東京に行く決意をする。注目は、本編には登場しなかったTO-Yの父だ。ベーシストで、そしてその風貌はもろにデヴィッド・ボウイだった。
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