ユリイカ 1988年8月臨時増刊号 総特集=大友克洋
文芸雑誌「ユリイカ」で、かなり前だが1988年夏に大友克洋特集号が発表されていた。
出版のタイミングだが、「AKIRA」の劇場公開にリンクさせてと思われる。構成も、目次がページ番号の昇順ではなくテーマ別に分類されていたり、冒頭や末尾に他の記事がなかったりと、現在とは異なっている。冒頭が手塚治虫によるコメントで、手塚は大友を評価しつつライバル視もしていたという話を聞いたことがあるのと、この約半年後に亡くなってしまっていることを思うと、灌漑深いものがある。
各文筆家による考察の対象になっている作品は、『童夢』『AKIRA』に集中している。個人的にはこうしてくれた方が読みやすいが、コアな大友ファンからすれば、もしかすると不満が残るかもと想像してしまう。公開とほぼ同時の出版により、タイミング的に劇場版「AKIRA」を鑑賞してから執筆に臨めた人はいないと思われる。大友が自ら監督を担うため、原作連載を中断していることに言及した記事はあった。
大友の漫画は、人と同じくらいあるいはそれ以上に都市に焦点を当てていること、従来の漫画は手塚や藤子不二雄のようにまるいタッチが代表的だったが、大友のタッチは直線が象徴的で、そして素晴らしいという指摘は、なるほどと思った。直線描写の象徴として団地を挙げていて、『童夢』はまさに団地が舞台だし、『AKIRA』でも金田と鉄雄は団地育ちという指摘が。かつて手塚の『新宝島』がまるで映画のような表現と言われたが、大友の『童夢』『AKIRA』は、映画的な表現を更に進化させたのではと感じている。
巻末に、この時点での全作品解説があって、大友の漫画家としての歩みを垣間見ることができる。短編作品がかなり多いのと、掲載された雑誌もあってか、成人向けの表現が最早標準的になっている。『AKIRA』にはそうした描写はほぼないが、あえてそうしたのかもしれない。
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