ア・ホーマンス(1986年)
記憶喪失の男が、大島組と旭会の抗争真っ只中の新宿にバイクでふらっとやってくる。大島組幹部の山崎は、男を気に入って「風(ふう)さん」と呼び、自分が経営する店で働かせる。
大島組組長が旭会のヒットマンに射殺され、抗争は激化。山崎は風を伴い、資金調達のための麻薬取引に向かうが、刑事に連行されてしまう。2人は証拠不十分で釈放され、山崎は一切口を割らなかった風に対し、今まで以上に信頼を寄せる。組の実権を握る藤井は旭会との手打ちを目論み、山崎は旭会会長を射殺し、組を抜ける決心をする。
マンガの原作があるのだが、主人公の男が記憶喪失ということ以外に共通点は少なく、実写映画としてアイディアを膨らませている。キャストは、風を松田優作、山崎をARBの石橋凌、藤井をポール牧、刑事を小林稔侍、山崎の恋人を手塚理美。意見が合わず降板した監督に代わったことで、松田優作の初にして唯一の監督作品になった。
ヤクザ映画の体裁をとりながら、男の友情を描いた青春群像劇と思いきや、更にSFの要素がプラスされている。風の過去と思われる映像が断片的に挿入され、阿木燿子演じる女が風に語りかける。そして終盤、山崎が藤井のヒットマンに襲われたのを受け、敵討ちのために追い回す風。腹部を撃たれるも、その肌の内側に見えたのは臓器ではなく機械だった。
一般的な評としては、焦点が散漫で、俳優が監督をやったがゆえに偏っている、とあまり芳しくはない。ヤクザ映画とSFは真逆なこともあり、受け入れられにくいのは致し方ないだろう。ただ、個人的にはどちらのジャンルも受け付けていることもあり、楽しめている。風がヒットマンを追い詰める中でのカメラアングルが360度回転する映像は、ハリウッドにもひけを取らない。
ARBの石橋凌は、この映画が俳優デビューになる。松田優作との絆は深く、優作が亡くなった際には生前に交わしていた約束のもと、音楽活動を完全休止して俳優業に打ち込んだ。主題歌『AFTER'45』は、その後ARBの代表曲のひとつにもなった。また、ヒットマンのひとりが寺島進で、石橋と同様、俳優デビューだそうだ。
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