狼の紋章(1973年)
博徳学園の教師青鹿晶子は、夜道で少年がチンピラに刺されるのを目撃してしまう。その翌日、自分が受け持つクラスに転校生として編入してきたのは、昨夜刺された少年、犬神明だった。青鹿は犬神を医務室に連れていくが、刺されたはずの傷跡は残っていなかった。
犬神は校内の不良に目をつけられ、事あるごとにリンチを受ける。しかし無抵抗を貫き、何人かは自滅させ、しかもその目撃者まで仕立てている。不良のボスで暴力団幹部の息子羽黒は、そんな犬神を動かすために青鹿を拉致する。
平井和正原作の小説の、実写映画化になる。舞台が中学校から高校に変わっていること以外、ほぼ原作に忠実だ。原作はウルフガイ・シリーズの第1作にして傑作で、このシリーズは『幻魔大戦』に並ぶ氏の代表作だ。
その傑作を映像化すると、こんなふうになってしまうかという残念な気持ちは、もちろんある。中盤、生徒会が不良に対抗する決起集会を開くが、集まった人が少なすぎる。もっと、エキストラを集められなかったのかと思う。犬神は、半人半狼の体質であるがゆえに不死身に近い体を持つ。クライマックスの羽黒との対決では頭部を狼化させるのだが、稚拙さはどうしても拭えない。
70年代の日本映画ということで、予算もそれほど潤沢ではなかっただろう。『猿の惑星』の完璧な特殊メイクと、比べてはいけない。荒々しい描写も、当時の流れだったのかもしれない。ただ、皇居周辺でのロケ敢行には、制作側の意欲と野心を感じさせる。作品全体には、勢いとエネルギーが感じられる。
キャストは、犬神は志垣太郎、青鹿晶子は市地洋子、羽黒は松田優作、犬神に興味を示すクラスメートの小沼竜子は加藤小夜子、青鹿や犬神に接近するルポライターの神明は黒沢年男だ。志垣は、近年は日曜昼の情報番組で見かけるのみだが、この頃は二枚目俳優だったのかもしれない。黒沢は、今とあまりイメージが変わらない。市地は体を張った演技も厭わず、この作品における最大の功労者ではないかと思う。加藤の役は、ちょいちょい犬神にちょっかいを出してくるが、大筋にはあまり関係がない。
松田優作は、本作がスクリーンデビューになる。それまではエキストラとしてのドラマ出演はあったが、テレビドラマ『太陽にほえろ!』のジーパン刑事と同時期にこの役が決まり、つまり1973年が実質的な俳優デビューになる。正直、ここでの松田優作は表情が固く、台詞も棒読みに近い。しかし、存在感は既に大きく、後の活躍を予見させる。
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