東京事変『ウルトラC』
東京事変は、2010年にアルバム『スポーツ』をリリース。その全国ツアー「ウルトラC」から、5月12日の東京国際フォーラム公演が映像化されている。
当然ながら、新譜『スポーツ』からの曲がセットリストの軸になるが、このアルバムは事変になってからロックバンドモードが全開していて、個人的には事変の最高傑作だと思っている。キラーチューンになりうる(いや、なっている)『電波通信』を序盤で早くも放ち、椎名林檎以外の4人の短いソロが組み込まれる『OSCA』で、ショウは早くも沸点に達した。
このツアー、個人的には前半の名古屋公演と、この収録の前日の国際フォーラム公演に行っていた。名古屋のときは中盤にメンバーMCコーナーがあり、ドラム刃田とキーボード伊澤が名古屋観光をした写真を見せ、つまりクールダウンした和みモードがあった。こうした趣は、それまでの事変のツアーでもあったことだ。
しかし、ツアー後半の国際フォーラムではMCがほとんどなく、バンドは歌と演奏に徹底していた。場内は緊張感に包まれ、事変がこのモードにシフトしたことに度肝を抜かれてしまった。このモードは、事変になってからはじめて、そして椎名林檎のソロのとき以来だと思ったからだ。
本編ラストの『雨天決行』で、ステージ後方に陣取ることの多かった亀田誠治が前方に出てベースを弾き、そのすぐ横で切々と歌い上げる椎名林檎の姿を見て、バンドは悟りの境地に達したのではと思ってしまった。
名古屋では2回だったアンコールは、ここでは1回に凝縮された。『丸ノ内サディスティック』は、東京公演でセットリストに組み込まれたようだ。オーラスは、『スポーツ』のラストナンバーでもある『極まる』。最後はステージにスモークが炊かれてメンバーが見えなくなり、スモークが消えると無人になっているという演出だった。
このツアー、メンバー5人にゆかりのある地を巡っていて、その地オンリーの試みが特典映像として収録されている。千葉ではギター浮雲、福岡では林檎、大阪では亀田、島根では刃田、岡山では伊澤という具合。中でも秀逸は島根で、刃田が石見神楽の演舞をステージ上で繰り広げた。
ツアーの前半と後半とでは、あまりにモードが違っていた。個人的には、国際フォーラムの鬼気迫るモードには狂喜したが、一方でこのツアーが終わったら事変は解散してしまうのではという想像もした。いい意味でのユルさが事変の活動を円滑にしていたと思っていて、それが「封印」を解いたことで最終コーナーに足を掛けたように思えたからだ。
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