U2『Innocence + Experience Live In Paris』
u2のアルバム『Songs Of Innocence』に伴うツアーから、2015年12月7日のパリ公演が映像化されている。この公演は、図らずも特別な意味合いを帯びることになった。
2015年11月、バンドはワールドツアーの最終局面にかかっていた。パリでは4公演をこなし、ラストは彼らの地元アイルランドのダブリンで締めくくるはずだった。それが、2公演を終えて3公演目を控えたタイミングで、あの同時多発テロ事件が起こってしまった。バンドは残り2公演をキャンセルするも、できるだけ早く戻ってくると宣言。そのことばの通り、わずか2週間後に振替公演が実現した。
まずはディスク1のライブ本編。パティ・スミスの『People Have The Power』をSEに、アリーナの通路からボノがゆっくりと歩いて姿を見せる。『The Miracle(Of Joey Ramone)』でスタートし、『Vertigo』『I Will Follow』と、名刺的意味合いの高い曲を畳み掛ける。
映像を観ていて、しばらくの間はステージセットがどうなっているのか認識できなかった。まず、会場はアリーナクラスで、縦長形状のアリーナエリアの端の方にステージが設置されている。これは、通常のライブと同じ。しかし、巨大LEDスクリーンがステージと垂直方向、スタンディングエリアの真ん中に設置されている。つまり、ステージを正面に観たときの左右のスタンド席からは映像がよく見えるが、恐らくステージ真っ正面の席の客からは見えないと思われる。このスクリーンの真下は、花道になっている。
巨大LEDスクリーンは完全な板状ではなく、実は隙間だらけ。花道を歩くボノやジ・エッジの姿が見え隠れするし、曲によっては映像の中にボノが溶け込んでいるようにも見える。ツアー毎に巨大会場でのライブのあり方の最先端を行くU2だが、今回も自らが保持する最長不倒を更新している。
前半は、当時の新譜『Songs Of Innocence』からの曲が中心になる。ボノは英語のほかフランス語も多用し、前の月に起こった悲劇の悲しみ醒めあらぬ観客に寄り添おうとする。中盤、『The Fly』はセットチェンジのパートでもあったが、バックステージで衣装を替えたりメイクを直したりしながらマイクを持って歌うボノの姿がスクリーンに映し出される。
そしてセンターステージでの演奏となり、『Mysterious Ways』では観客にスマートフォンを持たせてアップの自分を撮影させた。続く『Elevation』 では、更に数10人の客を上げて花道で踊らせていた(仕込みの人たちかなあ、やっぱり)。そして、ボノとジ・エッジ2人だけでの『Every Breaking Wave』『October』に。ジ・エッジのピアノに乗せて切々と歌うボノの姿は、テロに対する鎮魂歌として機能しているようにも見えた。
本編を『With Or Wituout You』で締めると、アンコールはスティーブン・ホーキング博士のナレーションで幕開け。長尺の『Bad』 や『One』に差し掛かると、いよいよライブの終演が近づいていることを予感させる。しかしだ。ここで、特別ゲストとしてイーグルス・オブ・デス・メタル(EODM)が登場し、『People Have The Power』を共演。この後U2の4人はステージを後にし、EODMだけで彼らの曲『I Love You All The Time』を演奏した。
EODMは、テロ事件の日にバタクラン劇場でライブ中だった。ここも襲撃の現場になってしまい、観客とバンドのスタッフが凶弾の犠牲になってしまった。以降多くのアーティストが『I Love You All The Time』をカバーし、バンドそしてパリ市民を後押ししてきた。そして、これがU2流の後押しだったのだ。
ディスク2は、ツアードキュメンタリー、ショートフィルム仕立てを含むPV集、ライブ中のスクリーン映像ピックアップ、他の公演での日替わり曲の模様などが収められている。そして、特筆すべきはディスク1収録公演の前日、12月6日公演の抜粋だ。序盤には『Out Of Control』、そしてアンコールでは『Bad』を経てボノがパティ・スミスを紹介。ライブのオープニングSEにも使っている彼女の『People Have The Power』を本人と共演。パティはイベントのためにパリを訪れていた。なんという偶然か、いや、必然だ。
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