『ブレードランナー証言録』を読んだ
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ブレードランナー ハリソン・フォード, ブレードランナー, ライアン・ゴズリング, リドリー・スコット
映画「ブレードランナー」(以下「2019」)の関係者4人のインタビュー集だが、そのうち2人、ハンプトン・ファンチャーと渡辺信一郎は『kotoba 2018年春号』に掲載された内容に加筆修正されたもの。ということで、あと2人は(恐らく)本邦初となる。どれも注釈が充実していて、本文を読みながら注釈を参照して補足する楽しみもある。
まずひとりめは、マイケル・グリーン。「ブレードランナー2049」(以下「2049」)で、ハンプトン・ファンチャーから引き継いで脚本を仕上げた人だ。ハンプトンと実際に会ったのは撮影終了後であること、ハンプトンの草稿は脚本というより詩や散文の形式になっていること、キャスティングは監督のドゥニ・ヴィルヌーヴと制作会社が担っていたが、Kの役がライアン・ゴズリングになったのはピッタリと思っていること、などを語っていた。
そしてふたりめは、作家で映像プロデューサーのポール・M・サモンという人。「メイキング・オブ・ブレードランナー ファイナルカット」の著者でもあり、リドリー・スコットやハリソン・フォードとも親交がある人で、ブレードランナー評論の第一人者と言っていい。
この人は、「2049」には結構ダメ出ししている。「2019」には日本語やスペイン語も飛び交い多国籍/無国籍感があったが、「2049」では英語のみになっていること。カオス感が感じられないこと。一方で、プロットに中国の要素を入れなかったことを指摘。これは最近劇場で洋画を観ていて感じていることで、中国関連の出資に配慮して中国人もしくは中国系の配役がされたり、アメリカが主体でありながら中国が救いの手を伸ばしたりといった描写がされることがあった。しかし、「2049」はそれをしなかったのだと。
インタビュアーが、共通して質問していることがある。デッカードは人間かレプリカントか、という問いだ。ハンプトンとサモンは、人間でもありレプリカントでもあるという、非常にあいまいな回答をしている。因みに、リドリー・スコットはレプリカントと言い切っているとのこと。この問いに対するマイケルの答えが秀逸で、「2049」を観てもなおその問いがされるということは、我々は優れた仕事をしたことの証だと言っている。サモンに至っては、リドリーがそう言ったからといって、それが正しいことにはならない、とまで。
個人的には、ネクサス6型の寿命4年設定から、デッカードが生き続けていることでイコール人間だと思っていた。ところが、先日imax版で「ファイナルカット」を観たときに、レイチェルには寿命が設定されていないことを匂わせる描写があったので、現時点ではいよいよどっちかわからなくなっている。マイケルやサモンによれば、こうした議論が尽きないことも、「ブレードランナー」の面白さのひとつなのだとか。
1982年に劇場公開された「2019」の冒頭には、「ロサンゼルス 2019年11月」とある。そして今は、まさに2019年11月だ。
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