村上春樹『螢』
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ノルウェイの森
村上春樹の『ノルウェイの森』を読み、関連する情報を調べていくうち、この作品の元になる短編があることを知った。というより、もともとは短編として執筆され、それが長編として具現化され再構築されたのが『ノルウェイの森』ということらしい。その短編は『螢』という作品だった。
文章は、内容のみならず文体までも、そのほとんどが『ノルウェイの森』の前半部まんまだ。故郷では、親友だったキズキが自殺する。ワタナベが大学入学で上京し、学生会館に入り、突撃隊と同室になる。突撃隊のことを、直子に話す。やがて直子は、大学を休学して療養所に入る。
ワタナベと直子との関係は明確ではなく、恋愛関係にあるかどうか微妙。直子が休学して療養所に入る理由も、明らかにされてはいない。この短編のクライマックスは、『ノルウェイの森』ではわずかだけ描かれていた、突撃隊がワタナベに見せる螢だ。恐らくこの螢は、直子やキズキなど、死と生の境界線にいる者たちの象徴なのではと思う。
たいがいの短編は、これから面白くなるというときに突然終わる。『螢』も然りなのだが、クライマックスの螢のところをファンタジックに描写している分だけ、まだ手応えがある。そして、これが『ノルウェイの森』のプロトタイプとなり、後々、緑やレイコなども加わって大きく話が膨らむというイマジネーションを働かせれば、単なる短編にとどまらない、重みを感じることができる。
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