浜田省吾チャリティーコンサート@NHKホール 2019年1月16日
アルバム『Journey of a Songwriter』に伴う全国ツアーを、2015年から2016年にかけておこなっていた浜田省吾。現在は充電モードかと思いきや、昨秋から年明けにかけてファンクラブイベントを実施しており、そして今回はチャリティーライヴを実施する。個人的にNHKホールで浜省を観るのは2007年6月以来で、約11年半ぶりになる。
定刻通りに客電が落ち、幕がせり上がる。ステージは、中央に椅子と3本のアコースティックギターがあるだけの、シンプルなセットだ。そして、浜田省吾登場。白シャツに黒ベスト、ブルージーンズ姿で、ハットを被っていた。
今回のライヴは人道支援のチャリティーであり、ライヴのテーマは「Welcome Back To The 70's」とのこと。オープニングはファーストアルバムのタイトル曲『生まれたところを遠く離れて』だ。浜田は椅子にかけてアコギを弾きながら切々と歌い、曲間に次の曲にまつわるエピソードを披露。歌で描かれるのは架空のキャラクターだと言いつつ、浜田本人ともダブるのは、会場に集まったみんなが共有していることだ。
テーマは高校の頃から予備校生、大学入学、そしてデビューへと続き、まさに浜田自身の半生をたどって行く。予備校時代の『19のままさ』では、バックドロップのスクリーンに歌詞が浮かび、浜田も一緒に歌うことを促していたので、場内は歌と手拍子に包まれた。個人的には、続く『遠くへ』が染みた。アコースティックの体裁でありながら、浜田の歌はエモーショナルで力強く、攻めの姿勢が感じられたからだ。
そして町支寛二が加わり、浜田は自分とは長い付き合いであることやデビュー時のエピソードなどを交えつつ、2人によるアコースティックで演奏を繰り広げる。トークで興味深かったのは、苦労話もそうだが、サングラスをしている理由を語ったことだ。それは、自分は歌より前には出たくないとのこと。なるほど。このアコースティックセット、ラストは『路地裏の少年』の合唱モードで締めた。
20分弱のインターバルの間にも、浜田がDJとなり愛奴の曲を流すラジオ番組の体で数曲が流れ、オーディエンスを飽きさせない。この架空のラジオ番組は、J.Boyスタジオから発信されていたとのこと。
そして第2部は、フルバンドでスタート。ここ数年のツアーメンバーと同じ面々が揃っているが、演奏されるのは70年代つまり初期の曲だ。浜田のキャリアはフォークからニューミュージックを経て、ストリートロックで自身のミュージシャンとしてのスタイルを確立したが、ニューミュージック期の音や歌がかなり新鮮だ。個人的には、『恋に気づいて』『子午線』がツボだった。
驚異的だと思うのは、70年代に書かれ、CDで聴けば時代を感じさせる曲たちが、ライヴの場では全く古びておらず、それどころかむしろ新鮮に鳴っていることだ。まさに、浜田およびバンドメンバーたちの力量だろう。長田のギター、小田原のドラム、古村のサックスやマンドリン、など、そしてもちろん浜田自身のアティテュードが、そうさせている。
第2部でも適度にMCがあって、公演の主旨であるチャリティーのこと、ファンクラブイベントで福岡に行った際太宰府天満宮で中高生に全く気づかれなかったこと(その後駐車場で孫を抱いた浜田と同年代の夫婦に気づかれたとか)、バンドメンバーの個々の活動、そしてこの日の公演には収録が入っていることなどを語ってくれた。
ギアが入ったのは、『風を感じて』のときだ。ここまでは立っている客はまばらだったが、ここに来て立ち上がる客が増え、やがて総立ちになった。ワタシの席は2階右側だったが、小型カメラを手にしたスタッフが何度も通路を往復しているのがわかった。きっと、臨場感溢れる映像が記録されていることだろう。
本編ラストは、『君が人生の時』。切々としかし力強く歌い上げる浜田の姿を見て、こりゃアンコールなしでここで終わるなと思ったが、なんとこの後2度に渡ってアンコールはおこなわれた。最後はバンドメンバーが去り、浜田ひとりだけでのアコギ弾き語りで『ラスト・ダンス』。サビは観客による合唱となった。
浜田省吾のライヴにおよそはずれなどないが、今回も圧巻だった。弾き語りの第1部はストーリーテラーとして、演奏はさることながら合間のトークが次の曲への誘導になり、それらは全てが1本の線でつながったひとつの物語のようだった。バンドセットの第2部は、現在65歳の浜田が20代に若返ったかと錯覚するほど躍動していた。
『J.Boy』も『Money』もないセットリストだったにもかかわらず、いやそうしたヒット曲のないセットだったからこそ、この人の表現者としての力量、奥深さ、引き出しの多さを今まで以上に感じることができた。以前、山下達郎が初期アルバム6枚に限定したツアーを観たことがあったが、それに似た性格のライヴだと感じている。真に優れたアーティストとは、この人たちのことを指すのだろう。まだ2019年が始まったばかりだが、この夜に比肩するライヴに、どれだけ巡り合えるだろうか。
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