ウインド・リバー(ネタバレあり)
アメリカ北部の冬場は雪に覆われた極寒の地、ワイオミング州のウインド・リバー地区。野生生物局のコリーは、雪山の中で少女の遺体を発見し通報。FBIは、女性捜査官バナーを派遣する。少女には外傷とレイプの痕跡があるにもかかわらず、検死結果は窒息死。それでは応援を頼むのが難しいと判断したバナーは、コリーと市警のベンに協力を依頼する。
雪景色は一見美しいが、周囲には何もなく、住む人も少ない。そして、事件が起こっても解決が困難な地だ。実はウインド・リバーはアメリカ政府直轄地で、なので事件が起こっても市警は動くことができず、捜査はFBIがおこなう。管轄の問題が、なんともややこしい。そしてアメリカ政府直轄なのは、ここがネイティブ・アメリカンを追いやった地だからだ。
主人公コリーをジェレミー・レナー、FBI捜査官バナーをエリザベス・オルセンが演じている。つまり、『アベンジャーズ』シリーズのホークアイと、ワンダことスカーレット・ウィッチの2人だ。
動物を合法的に射殺できるコリーは、ライフルを使いこなしスノーモービルを乗りこなし、と、どこかホークアイを彷彿とさせる。一方で3年前に娘を亡くし、妻とも離婚。この元妻もネイティブ・アメリカンで、白人とネイティブの双方の痛みを受け入れる立ち位置にいる。亡くなった少女もネイティブ・アメリカンで、コリーは彼女の家族とも知り合いだった。
一方のバナーは軽装で現地入りしてしまい、コリーやベンからするとFBIが経験の少ない若手を押し付けてきた、というのが最初の印象。しかし、彼女は高飛車にもならず、事件解決のために奔走し、コリーともつかず離れずの距離感で共に立ち向かう。スカーレットは、不幸な境遇と、特殊な能力を持つがゆえの悲しみと苦しみを背負っているが、バナーは誠実でひたむきで好感が持てる。この役は、エリザベス・オルセンの女優としての幅を広げたと思う。
冒頭、事実を基に作られた物語というメッセージがさらりと流れる。そして、ネイティブ・アメリカンの被害者数に関する統計はないというメッセージが、ラストに流れる。無法地帯と化している、辺境の地、犯罪者だけでなく、一般人も身を守るために当たり前のように銃を持つ社会。そして、今なお続くネイティブ・アメリカンへの差別。非常に重く悲しいテーマを背負っているが、作られた意味のある映像作品だ。
雪山を殺伐とした地のように観る側に思わせているのは、スコアを担当したニック・ケイヴの技量だと、エンドロールでわかった。
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