CROSSBEAT Special Edition ベック(Beck)を読んだ
ナイン・インチ・ネイルズと同じく、サマーソニックで来日するタイミングにリンクさせてベックのムック本が発売されている。
かつて月刊音楽誌クロスビートに掲載されていたインタビューや来日公演レポート、ステージ写真などを使っているのは、このシリーズの定番フォーマットだ。そんな中、半生を綴ったヒストリーは初見の事項が結構あり、新鮮だった。
大学をドロップアウトし、ニューヨークに渡ってアルバイトをしながら作曲に励んだエピソード。ホームレス生活だったそうだが、本人はそれを苦とは思わなかったようだ。パティ・スミスは、以前のニューヨークは若者が夢の実現のためにやってきて、それが実現できる場もチャンスもあったが、今はお金持ちが暮らす街になってしまったと言っていた。ベックの少年期の頃は、ぎりぎりで夢を追い求められる街だったのだろうか。
曲を書きつつステージに立ってライヴパフォーマーとしてのスキルを磨く日々が4年あったといい、あのベックにして世に出るのに4年もかかったのかと驚かされた。もっとも、本人は成り上がることよりも自分の活動を制限されないことの方にこだわっていたようで、メジャーのゲフィンと契約しつつインディレーベルからもアルバムを出すという、ちょっとありえないことも成し遂げている。
長年連れ添った恋人との別離が『Sea Change』へとつながっていく話はなんとなく知っていたが、別離の理由が浮気されてだとは知らなかった。この本では、『Sea Change』は前期の傑作とも紹介されている。
巻末にある、ベックに影響を与えたであろうアルバムの羅列は、ワタシにとってはなくてもよかったコンテンツだ。一方で、日本限定でリリースされたミニアルバムをフォローしていたのには少しびっくり。コレはいい仕事だ。
あと、ムック本にではなくベック本人への不満になってしまうが、キャリア25年で公式映像作品がないというのは、なんとももったいない。PVはコンスタントに作っているのに。かろうじて、『The Information』のボーナスディスクに全曲の映像があることくらいか。ただ、コレもこだわった映像とは言えず、限られた制作手段の範囲内で作られたに過ぎない。不思議だ。
どの時期の、どのスタイルのベックが好きか。ローファイあり、宅録あり、アコースティックあり、と、この人のスタイルは多方面に渡っている。個人的には、スター然としたベックが最も好きで、『Midnight Vultures』の頃、そして『Colors』をリリースした「今」だ。前者の頃はまだ若く、勢いでやっていた節があるが、今のベックは脊髄損傷の克服を経て、プリンスをはじめ偉大な先人たちの継承者たらんとする覚悟が伺える。グラミー賞授賞式でプリンスからトロフィーを手渡される瞬間があったそうで(そこでカニエに邪魔される)、両雄がコンタクトした瞬間があったことが、なんだか嬉しい。
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