ボブ・ディラン(Bob Dylan)『Trouble No More(The Bootleg Series Vol.13)』
ボブ・ディランの貴重な未発表音源を発掘する、ブートレッグシリーズ。ここ数年は毎年暮れにリリースされ、そしてその内容もディープさが増す一方だ。2013年の『Another Self Portrait』もインパクトがあったが、昨年暮れにリリースされた『Trouble No More』は更に上を行っている。ユダヤ系のディランがクリスチャンになり、79年から81年にかけて「キリスト教3部作」をリリース。そのときの音源を蔵出ししたからだ。
ワタシが持っているスーパーデラックスエディションは、CD8枚+DVDの超大作だ。ディスク1、2はライヴ音源のセレクション、ディスク3、4がリハーサルなどのアウトテイク集、ディスク5、6が1980年トロントの複数公演からセレクトしたライヴ音源、ディスク7、8が1981年のロンドンアールズコート公演のライヴ音源という具合。聴いていて女性コーラスがかなり新鮮で、ゴスペル調のメロディーに拍車をかけている。
このときのツアーでは「キリスト教3部作」からの曲しか演奏しなかったと聞いていたが、ディスク7、8の『Shot Of Love』ツアーの音源では、往年のヒット曲も織り交ぜたセットリストになっていて、なんだかほっとする。やり尽くして次のステップに進もうとしていたのか、あるいは世間の反発がひどかったのか。
DVDは必見だ。ディランの場合、60年代の映像はそこそこ豊富だが、70年代は『ラスト・ワルツ』や『バングラデシュ・コンサート』といった複数アーティストが出演するライヴの映像はあるが、ディラン単体というと皆無に等しい状態だったからだ。さてDVDの内容だが、スタジオ演奏と客入りの狭いライヴハウスでの演奏で構成されている。
当時30代後半のディランは若々しく、ジャケ写にもあるように熱唱しながら両手を振り上げている。小刻みに踊りながら歌う姿は、とても新鮮だ。『ラスト・ワルツ』『バングラデシュ・コンサート』では既に大御所感が漂っているのに、ここでのディランは自由で開放的なのだ。ディランが変わるときは常に女性がきっかけになっているという考察を読んだことがあって、妻サラと離婚したディランは、ツアーに帯同する黒人女性コーラスと恋仲になったとのこと。クリスチャンになったのも、彼女の影響なんだとか。
ディランがキリスト教に寄ったのは、リアルタイムで聴いていたファンにとってはショッキングだったかもしれない。ただ、後追いで聴く身としては、こういう時期もあったんだと、割と冷静に受け止められる。そして、こういう蔵出しは他のアーティストには果たしてできるだろうか。
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