椎名林檎@名古屋国際会議場 センチュリーホール 2018年5月12日
個人的に東京事変のツアーときに2度名古屋に遠征したことがあり、それ以来の名古屋でのライヴになる。前回の百鬼夜行ツアーをNHKホールで観たときは2階席だったが、今回は1階4列目左側と、久々に席に恵まれた。
定刻になったと同時に、ステージのバックドロップにタイムカウンターが表示される。3分前からカウントが始まり、残り1分を切ったところでバンドメンバーが登場。そして10秒前くらいに椎名林檎が姿を見せ、カウンターがゼロになったと同時に『人生は思い通り』でスタートした。
バックの映像はスペースシャトル打ち上げになり、宇宙空間に繰り出したところで船体がオープンになると、アルバム『逆輸入〜航空局〜』のパッケージがお目見えし、宇宙空間を漂う。まるで、『2001年宇宙の旅』のモノリスのようだ。曲の終盤でバンドメンバーが字幕に、続く『おいしい季節』のときには、スタッフのクレジットが早々に紹介された。そして、ツアータイトル「椎名林檎と彼奴等の居る真空地帯-AIR POCKET-2018」のロゴも。当初は「ひょっとしてレコ発」というタイトルだったが、これが正式のようだ。
バンドは、後列向かって左に村田陽一をはじめとするホーンセクション3名、前方は向かって左から右にキーボードのヒイズミ、ギター名越、ベース鳥越、ドラムみどりんという配置。今回浮雲がバンドにいないことを、ワタシはこの場で知った。メンバーは、みなアジアンテイストの衣装をまとっている。
そして椎名林檎だが、彼女もアジアンテイストのロングドレスを着ているが、左肩や腰、頭部にはヨーロッパ騎士がまとうようなシルバーの甲冑をつけていた。ちょっとジャンヌ・ダルクを彷彿とさせる。彼女はだいたい半身で歌うのだが、右肩を前にするのが癖らしく、ワタシのポジションからは彼女の背中がよく見える(笑)。
今回はセルフカヴァーアルバム『航空局』に伴うツアーだが、個人的には初期の曲が沁みる。『ギブス』では林檎もギターを弾いていたが、終盤のギターソロを担っていたのは名越で、このときばかりは林檎よりも名越を見ていた。長髪を束ねた名越は侍のような佇まいで、フェンダージャガーでトレモロアームを駆使するプレイはカッコよかった。みどりんが、ドラムを叩きながら歌詞を口ずさんでいた。
稲妻のようなアウトロからドラムイントロの『意識』へのつなぎには、はっとさせられた。鳥越のベースリフで始まった『弁解ドビュッシー』をナマで聴くのは、いつのツアー以来だろう。『浴室』は、彼女が世に放った中でははじめてテクノに染めた曲ではないだろうか。
もちろん、セルフカヴァーの数々も素晴らしい。ともさかりえに提供した『少女ロボット』は、東京事変時代にはデジタルチックなアレンジでライヴ演奏しているが、今回はしっとりめなアレンジに。栗山千明に提供している『おいしい季節』は、CMで使われていて耳にしていることもあってか、林檎バージョンの方がしっくりくる。
しかし更に秀逸だったのは、石川さゆりに提供した『暗夜の心中立て』のときだ。林檎はアジアンドレスから白地のロングコート姿になっていたのだが、ここで脱ぎ捨ててしまいグリーンのスリップドレス姿に。束ねていた髪をほどいてばさばさにし、やがて歌いながらステージに倒れ込んだ。デビュー時ならまだしも、今年キャリア20年を迎えてなお体を張る彼女の姿勢に、頭が下がる想いがする。
林檎は歌い終えるとステージ後方に足を進め、やがて姿が見えなくなった。バンドメンバーもステージから捌けるが、あまり間をおかずに『枯葉』へ。戻ってきたメンバーは、白のツアーTシャツ姿だ。林檎のアカペラの歌声が聞こえる中、バックは髪をじょきじょきと切り落とす映像に。そして生還した林檎は、ショートヘアに白ツアーTに革パンツ姿だった。映画『愛の嵐』のルチアが、一瞬頭をよぎった。
ここからの展開もすさまじい。ドラマ『カルテット』の主題歌『おとなの掟』は、ドラマと同等かあるいはそれ以上に世に愛され受け入れられた曲だ。ストリングスが必須と思われるメロディーなのに、ここではバンドだけで演奏している。『重金属製の女』では、歌詞テロップがステージ両サイド、およびバックドロップの両サイドのスクリーンに流れる(この曲より前にもテロップは駆使されていた)。
『静かなる逆襲』では、バックドロップにネオン風に歌詞の断片が表示される。『華麗なる逆襲』は、イントロのところで「SMAPでーす」と林檎。そして、これも番組主題歌の『孤独のあかつき』。こうしてみると、彼女は芸能界、エンターテイメントとうまく距離感を保ちながら活動している。マニアックになりすぎず、といって商業的になりすぎてもいない。
『自由へ道連れ』は、個人的に東京事変解散以降の彼女のソロ曲では最も好きだ。2014年にさいたまスーパーアリーナで観たときの、アリーナど真ん中の花道をスケボーで駆け巡る風の彼女、そのときの場内の一体感が、今でも忘れられない。そして本編ラストは、締めくくりにふさわしい『人生は夢だらけ』だ。
アンコールは、全員が着物姿。ヒイズミが「アンコールありがとーーー」と言ったのは意外だった。林檎も着物姿で、『丸サ』だ。そして、驚いたのは『NIPPON』。もちろん現在の彼女にとってはマストソングなのだが、着物でやる!?と思ってしまった。リードギターはほぼほぼ名越だが、ここでの間奏は、林檎がギブソンRDを弾きまくっていた。右の薬指に、アーマーリングが見えた。
オーラスは『野性の同盟』。しっとりとした出だしから徐々にエモーショナルになっていく。そして、この曲のハイライトはラストの凄まじいプレイの応酬だ。林檎は早めに後方に姿を消し、バンドだけの演奏に。やがてステージはスモークで覆われ、メンバーが全く見えなくなる。これ、アイコンタクトもできないから音合わせるの無理だろと思っていると、やがてスモークがひけていき、ステージは無人になっていた。途中からテープにすり替わっていたのね。
セットリスト
人生は思い通り
おいしい季節
色恋沙汰
ギブス
意識
JL005便で
少女ロボット
弁解ドビュッシー
浴室
薄ら氷心中
暗夜の心中立て
枯葉
眩暈
おとなの掟
重金属製の女
静かなる逆襲
華麗なる逆襲
孤独のあかつき
自由へ道連れ
人生は夢だらけ
アンコール:
丸の内サディスティック
NIPPON
野性の同盟
アルバム『日出処』以降の彼女のライヴパフォーマンスは尋常ではないほどクオリティーが高いが、今回もその密度の濃さは健在だった。時間は100分と幾分コンパクトになったが、それは衣装替えにかかる時間を短縮するなど、削ぎ落とせるだけ削ぎ落とし、ステージに集中させた結果だろう。近年彼女のMCは最小限になりつつあるが、これもいい傾向だと個人的には思っている。
シングル『幸福論』リリースから20年。そして、彼女のトリビュートアルバムももうすぐリリースされる。この20年の間には活動休止もあったし、東京事変の活動もあったし、結婚や出産や離婚・再婚もあった。そうして今に至っているわけだが、音楽的な高みにのぼりつめているだけでなく、東京オリンピックの演出を手がけるなど、前人未到の領域を突き進んでいる。同じ時代を生きることができてよかったと、心から思える存在だ。
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