ミューズ(Muse)@横浜アリーナ 2017年11月13日
先月のベックと同様、突然決まった来日公演。しかも平日。チケットは完売とはならず、場内は空席が目立った。しかし、ライヴはとてつもなく素晴らしかった。
予定より20分が過ぎたところで、やっと客電が落ちる。SEが響き、レーザー光線がステージからスタンド席に発せられる中、ドム、クリス、サポートのキーボードの人が登場し演奏が始まる。新曲『Dig Down』だ。マシューはというと、サングラス姿で歌うさまがスクリーンにどアップになり、やがて歌いながらステージに姿を見せた。スローな曲調だが、これが不思議とオープニングに合っていた。
ギターのツマミをちょっとだけ触ってノイズを出しては止め、を繰り返すマシュー。このじらしから『Plug In Baby』のイントロとなり、場内は早くも沸点に。この曲は長らくライヴ終盤にギアチェンジするときの曲として効力を発揮していたが、前回2015年フジロックの辺りから序盤に演奏されるようになっている。そして、この曲をクライマックスではなく序盤でやれていることは、ミューズがバンドとしてひとつ上のレベルに行ったことの証だと思う。より懐が深くなり、引き出しが増えたのだ。
マシューはブルーと白のスタジャン、クリスは深紅の革ジャン、ドムは白のジャケットで、3人ともステージ衣装というよりはカジュアルないでたちだ。ステージは両サイドにスクリーンがあってステージの様子を捉え、バックドロップには11面の縦長スクリーンが。これがすごくて、フレキシブルに稼動し、映像をより立体的に見せている。縦長スクリーンの配置により、ドムのドラムセットも可動していた。
ステージ上にも大小のカメラがいくつも設置されていて、ドムの背中越しのアングルは、バンドにはオーディエンスはこう見えていると教えてくれる。マシューとクリスはほぼ1曲毎にギター/ベースを交換するが、クリスのネックが光るベースやダブルネックベース、マシューのカオスパッド付きギターなど、それらを見るだけでも結構飽きない。スクリーンはマシューの手元だけでなくクリスの手元も何度も捉え、スイッチングのバランスが取れていた。
ファーストアルバムからの『Showbiz』こそ意外だったが、セットリストはキャリア横断的でありつつ、もっかの最新作『Drones』の曲を軸にしている。『Drones』は、遠隔操作で殺戮を行う兵士がやがて権力者にまで登り詰めるという、ダークでヘヴィーなコンセプトアルバムだが、ライヴではテクノロジーへの接近を音の表現としても映像的にも感じさせる。そして、いやだからこそ、マシューはよりフィジカルかつフレンドリーであろうとしている。
マシューは演奏を始める前、リラックスした様子でリフを奏でることがあった。レッド・ツェッペリン『Heartbreaker』や、映画『未知との遭遇』のテーマっぽいのを演っていた気がするが、気のせいかなあ。また、今回はアリーナ(横アリはセンター席という)はブロック分けされたオールスタンディングになっていて、Aブロックの中央には花道ができていた。マシュー、そして時折クリスもだが、花道の先端まで来ては歌ったりギターを弾きまくったりし、オーディエンスとの一体感を生み出すことに成功していた。
「サンキュートーキョー」で始まったマシューのMCは、途中から「サンキューヨコハマ」に修正され、終盤になると「サンキュートーキョー・・・(小声で)ヨコハマ」となり、笑えた。『Madness』ではカメラに向かってどアップにして歌い、サングラスには歌詞を浮かびあがらせていた。そして『Starlight』のときだが、まるでレキシが着るようななんともド派手なハッピをまとい、それだけでも驚きなのに、なんと歌いながらステージを降りてきた。
Aブロック前方を左右に歩いてオーディエンスとハイタッチし、これでステージに戻るのかと思いきや、なんとAブロック横にまで足を進め、BブロックからCブロックの方にまで足を進めていった。ワタシの席はBブロック右側の1階スタンド席(横アリではアリーナ席という)の前の列で、目の前をマシューが通り過ぎていく感覚だった。すると今度は、ステージから白い巨大風船がスタンディングエリアに向かっていくつも繰り出されていた。『Mercy』ではステージから紙テープが飛び、更に大量の紙吹雪まで。拾ってみると、人の形をしていた。そのときは気づかなかったが、アルバム『Drones』ジャケットの人にリンクしていて、支配からの解放を暗示していたのだと思う。しかし、どんだけ演出充実してるんだ。
マシューの口笛から始まり壮大なシンフォニーにシフトチェンジしていく『The Globalist』~『Drones』は、後半は映像メインとなった。メンバーは袖に捌け、映像は宇宙空間の中に未来的な子供の姿が。『2001年宇宙の旅』のスターチャイルドを思わせる、新生物のようにも思えた。この後『Uprising』となり(この日の公演をアンコールなしと思った人もいたみたいだが、個人的には『Drones』までが本編だったと思っている)。オーラスは、クリスのハーモニカで始まり(クリスは吹き終えるとスタンディングエリアにハーモニカを投げ入れていた)、ラストはスクリーンに歌詞が浮かぶ『Knights Of Cydonia』で締めた。マシューとクリス、そしてここまでずっとドラムセットにおさまっていたドムも花道に繰り出し、挨拶してくれた。
セットリスト
01.Intro SFX~Dig Down
02.[Drill Sergeant]~Psycho
03.Map Of The Problematique
04.Plug In Baby
05.The 2nd Law: Isolated System
06.Showbiz
07.The Handler
08.Supermassive Black Hole
09.New Kind Of Kick
10.Madness
11.Dead Inside
12.Munich Jam
13.Starlight
14.Time Is Running Out
15.Mercy
16.The Globalist~Drones
アンコール
17. Uprising
18. Knights Of Cydonia
個人的にミューズを観るのは今回が10回目で、ベストは2010年フジロックだった。この日のライヴは、席に恵まれステージが近くてよく見えたという「追い風」もあるが、その2010年に匹敵する出来だったと思う。ひょっとして前回来日の2015年フジロックと全く同じ内容なのでは?という不安もあったが、余計な勘繰りだった。彼らは常に進化し深化していくバンドなのだから。
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