KOTOKO(2012年)
cocco主演、塚本晋也監督の映画『KOTOKO』。2011年のベネチア映画祭でグランプリを獲得し、かなり評判の高い作品だった。一方で、断片的にではあるが重苦しい内容とも聞いていた。
重かった。
観る側にも、相応の覚悟がいる。
Cocco演じるKOTOKOは、幼い息子をもつシングルマザー。ものが二重に見え、近寄ってくる男にはフォークで傷つけ、自らもリストカットを繰り返す。やがて幼児虐待の疑いで息子は姉夫婦に預けられ、一方で田中という中年の小説家(塚本)と知り合う。
リストカットは、生きていることを確認するため。他者を傷つけるのは、恐れでもあり、そうすることによってしか、彼女は他者とコミュニケーションできないから(と思う)。
カメラは時にテブレになるが、これは意図的だろう。現実と虚構が交錯し、どこまでが現実なのかも観る人の解釈によるはずだ。極論すれば、ラストの病院のシーンだけが現実で、そこまでは虚構とKOTOKOの妄想とも受け取れる。そしてもっと言えば、病院の場面すら虚構なのかもしれない。
塚本晋也の作品は一本を通しで観たことはないが、かなり極端でアングラで暴力的という印象があった。前半は過激なシーンは局所的だったが、どんどん加速していき、やっぱりこの人こんななんだなと妙に納得。KOTOKOの暴力によって田中の顔面が変形するが、それがみえみえの特殊メイクで、リアルさがないことに逆に安心させられる。
Coccoは主演だけでなく、音楽、美術、原案も担当。つまり演者に留まらず、塚本とがっぷり四つに組んでいる。KOTOKOの着ている服や部屋の飾り、そしてその色彩はこれまでに観てきたCoccoのイメージまんまで、前半は彼女は演技をしているのではなく、彼女のドキュメンタリーなのではと思わされる。タバコも、まあよく吸っていた。
ベネチアで賞をとっていながら、なぜ大規模な公開ではなく局所的な公開なのか納得した。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のように観ていて胸を締め付けられ、『死の棘』のように評価はされても話題にはならない、重苦しさがあるからだ。
観ていて唯一救われるのが、KOTOKOが歌っているシーン。リストカットとは真逆の、彼女が生きていることを確かめる行為だと思う。
当時のCoccoのバンドのギタリストだった大村達身も、ちゃっかり出演している。
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