現代思想 2010年5月臨時増刊号 総特集◎ボブ・ディラン
文藝誌ユリイカを出版している青土社は、『現代思想』という文芸誌も出版している。個人的にまず縁のなさそうな書籍だが、ボブ・ディランの2010年3月来日にリンクさせた特集号があって、入手していた。
とにかく字数が多く、ワタシにとっては難解さと楽しんで読めるところの境界線ギリギリを行く内容だ。湯浅学や五十嵐正など、名前を知っている音楽評論家による文章もあるが、アメリカ文学の研究者や、日本に住んでいるアメリカ人文学者など、かなり幅広くそして奥が深い。1度だけでなく、何度も繰り返して読む必要があるかもしれない。
前半にある菅野ヘッケルとピーター・バラカンによる対談は、導入としてとっつきやすい。2010年の来日は2001年以来だったが、ヘッケルによると、実は2008年にも日本と中国をツアーする予定があって、それが中国側の都合で中止になったのだとか。中国には事前に歌詞を提出する必要があり、その返事がいつまで経っても来なかったとのこと。
また、イギリス人のバラカンは、1966年のツアーを実際に観たことがあるそうだ。ドキュメンタリー映画『No Direction Home』でも描かれ、例のユダ発言があった伝説のツアーだが、ディランにフォークを求めすぎる否定的なファンは一部にすぎず、大半のファンはライヴを楽しんでえいたとのこと(昨年リリースされた36枚組ライヴでも、それは裏付けられている)。
2004年に出版された、ディランの自伝に書かれているエピソードの引用が少なくない。そして、ディランがノーベル文学賞の候補にあがっていることも、何人かの執筆者によって触れられている。昨年の実際の受賞、そしてつい最近のディランの声明を知っていて読むと、結構興味深い。
巻末はお約束のディスコグラフィーだが、これがまたすごい。収録曲などのデータベース的な記述はない。しかし、ツアー、チャートアクション、プライベート(離婚調停など)、バンドの編成や解体、他のアーティストとの交友など、ディランがどのような状況にあって曲を書き、レコーディングに臨んでいたのかがよくわかる。80年代以降が駆け足気味になっているのが少し残念だが、書籍の末尾を締め括るにはあまりにも贅沢な文章になっている。
発売とほぼ同時に買っていたにもかかわらず、7年も放置していたことを後悔する一方、ノーベル賞受賞や新たなブートレッグシリーズのリリースなどによって、出版当時とはまたちがった読み方ができる楽しさを噛みしめている。
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