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ポール・マッカートニー(Paul McCartney)@東京ドーム 2016年4月29日

公開日: : 最終更新日:2024/09/15 ライヴ ,

ポール・マッカートニー(Paul McCartney)@東京ドーム

93年にはじめてを観て以来、毎回来日の都度足を運び、今回が5回目になる。過去4回はいずれもスタンド席だったが、今回はなんとアリーナBブロックでしかもほぼ正面という、角度的にも絶好のポジションになった。

DJを経て、ステージ両サイドのスクリーンがポールや関連するであろう人脈のフォトをランダムに組み合わせた映像を流す状態が続いた。予定時間を25分ほど過ぎたところで歓声が大きくなり、アリーナ客が立ち上がり、そして客電が落ちた。向かって左の袖からポールとバンドメンバーが登場。いよいよだ。

ライヴは、『A Hard Day's Night』でスタート。ポールはがグレーのジャケットに薄いブルーのシャツ、ジーンズという、カジュアルないでたちだ。さすがに、白髪が少し増えたかなあ。とはいえ、74歳とは思えないバイタリティーだ。『Save Us』『Can't Buy Me Love』と続けた後、近年のツアーではマストではなくなっていた『Jet』となった。キャリアにおいても定番曲のひとつのはずなので、嬉しかった。

上記の通り、今回はステージをほぼ正面に見られる席だったこともあり、ステージとスクリーンの両方を見ながら、ポールの演奏にも注目した。トレードマークのバイオリン型ベース、ヘフナーはフィンガー・ピッキングで弾いていた。親指以外の4本の指で、弾くというより弦をさらっとなぞっているように見えた。左手薬指には、指輪がされているのがわかった。

デジタルサウンドで、ポールにとってはかなり実験的な『Temporary Secretary』を経て、サイケなペイントがされたギターに持ち替え『Let Me Roll It』に。イントロのリフは自ら弾くが、歌っているときはラスティに任せ、間奏のリフはまた自ら弾いていた。こちらもフィンガーピッキングだ。アウトロはの『Foxy Lady』となり、ラスティと並んで弾きまくっていた。

ピアノコーナーでは、妻ナンシーに捧げた『My Valentine』、名盤『Band On The Run』のラスト『1985』、最初の妻リンダに捧げた『Maybe I'm Amazed』と、2年前とほぼ同じ(長くて曲がりくねった道が、今回は落ちている)。グランドピアノはステージ後方向かって右のひな壇に設置されていて、ヤマハ製だった。

過去4回の個人的なポールライヴ体験では、どうしてもポールひとりにばかり視線が行きがちだった。が、今回はバンドメンバーにも注目してみた。彼らは2002年以降不動の編成で、ポールを支え続けている。

後方向かって左のキーボードは、ポール・ウィッケンズ。89年ツアーからポールに帯同している古参で、ファーストネームがポールとかぶっていることから「ウィックス」という愛称で呼ばれている。この人は、曲によってはアコギやパーカッションもこなしていた。その隣、ドラムのエイブ・ラボリエル・ジュニアは、巨漢の体格を生かしたパワー型ドラマーと一見思えがちだが、実はリズムキープが的確なのだと思う。ドラムレスの『Eleanor Rigby』では、前方に出てコーラスも担っていた。

前方でポールの向かって右に陣取るのは、ブライアン・レイ。この人は曲により、つまりポールがどの楽器を使うかによってやることが変わる。ポールがヘフナーのときはリズムギターだが、それ以外ではベースなのだ。比率としては、むしろベースを弾く方が高かったような気がする。ポールの向かって左は、リードギターのラスティ・アンダーソン。多くの曲でのソロを担い、かなりの見せ場を作っている。ギターはギブソンSGやジャズマスターなど、5本以上は使いこなしていたと思う。2人ともぱっと見若そうに見えるが、実はブライアン62歳、ラスティ58歳だ。ウィックスが61歳で、バンド最年少はエイブで46歳だ。

個人的なライヴのハイライトは、中盤にあった。ポールが日本語で「ザ・ビトールズデ、サイショニレコーディングシタキョクデス」と言ってはじめたのは、『In Spite of All the Danger』。まだを名乗る前、クオリーメンだった頃の曲だ。更には『You Won't See Me』を経て、ビートルズのデビューシングル『Love Me Do』だ。

前回ツアーと何かを変えてくるだろうと思ってはいたが、単に数曲を入れ替えるというのではなく、アーティストとしての原点をここで再構築しようとしている。その姿勢こそが素晴らしい。エイブはスタンディングドラム、ウィッケンズはアコーディオン、ポールはアコギで、準アンプラグドと言ってもいい編成でじっくり曲を聴かせるモードだったのもよかった。『Love Me Do』は3分にも満たないシンプルな曲だが、ウィックスのハーモニカによるイントロが響いた瞬間、鳥肌が立った。

ポールひとりだけのアコギ弾き語りの『Blackbird』では、歌う最中にステージがせり上がった。2013年も2015年も観ているが、今回がワタシにとって最も近くポールが見えた瞬間だった。正面から見るとかなり高さがあるように見え、ポールは怖くないのかなと思ってしまった。ジョンに捧げた曲『Here Today』は、同じく高台ステージで歌われたが、ジョージの『Something』はもう少し後になり、今回はセットではなく分けられていた。

「イチバンアタラシイキョク、イッショニウタッテ」と言ってはじめたのは、カニエ・ウエストとリアーナと共作した『FourFiveSeconds』だ。馴染みのビートルズナンバーならともかく、コレ一緒に歌えるかよと思っていたら、バックドロップのスクリーンにサビの歌詞が出た。手書きタッチだったので、もしかするとポールの直筆を使ったのかな。

『Band on the Run』は何度聴いても感動的だが、今回もそうだった。前半と後半で曲調が大きく変わるのが特徴だが、ここでの立役者はブライアンだった。曲調が変わるそのときにギターをセミアコに持ち替えていて、そしてソフトなイントロを弾き、ポールの歌を導く。わずか数秒のイントロだが、コレがとても重要だと気づいた。一方のラスティもギターを替えていて、スバーを弦に滑らせていた。

『Live And Let Die』での、ステージに仕掛けられたマグネシウムがさく裂し火炎が吹き上がるのも、お馴染みの演出だ。バックドロップのスクリーンには英国国会議事堂とビッグベンが映り、見たときはイギリスだな007だなくらいにしか思わなかったのだが、なんと仕掛けがさく裂するときに爆破されてしまっていた(笑)。コレ、いいのかな。

本編を『Hey Jude』で締めくくり、アンコールの際ポールが日の丸を、ウィッケンズがユニオンジャックを、ラスティ(ブライアンだったかなあ)がレインボーカラーの旗を振りながら登場。エイブはカメラににじり寄ってどアップになりながら、ワイングラスに口をつけていた。そして、『Yesterday』を歌い終えて捌けようとするポール。ポールからアコギを受け取るローディーが客席を煽る素振りをし、演奏が再開する。この小芝居、微笑ましい。

サージェント・ペパーズは今年50周年だよと言ってリプライズ版を演奏し、ウィングス時代は定番だったであろう『Hi, Hi, Hi』からファーストアルバムの1曲目『I Saw Her Standing There』へ。そして、実質ラストアルバム『Abbey Road』の終盤メドレーへ。時空を超え、そして時空を自由に行き来できるのが、現在のポールだ。こうして、2時間35分に渡るライヴは終了した。

セットリスト
01. A Hard Day's Night
02. Save Us
03. Can't Buy Me Love
04. Jet
05. Temporary Secretary
06. Let Me Roll It
07. I've Got a Feeling
08. My Valentine
09. 1985
10. Maybe I'm Amazed
11. I've Just Seen A Face
12. In Spite of All the Danger
13. You Won't See Me
14. Love Me Do
15. And I Love Her
16. Blackbird
17. Here Today
18. New
19. Queenie Eye
20. The Fool on the Hill
21. Lady Madonna
22. FourFiveSeconds
23. Eleanor Rigby
24. I Wanna Be Your Man
25. Being for the Benefit of Mr. Kite!
26. Something
27. Ob-La-Di, Ob-La-Da
28. Band on the Run
29. Back In The U.S.S.R.
30. Let It Be
31. Live And Let Die
32. Hey Jude
encore
33. Yesterday
34. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
35. Hi, Hi, Hi
36. I Saw Her Standing There
37. Golden Slumbers
38. Carry That Weight
39. The End

ポールはところどころ声がかすれていて、それが全く気にならなかったと言えばウソになる。ステージでは1度も水を飲まなかったが、かすれてしまうのなら無理せず飲めばいいのにとも思った。がしかし、こんなことを打ち消して余りある、「今回も」素晴らしいライヴだった。74歳でワールドツアーをして、4万人5万人の客を相手にパフォーマンスをする。それがどれだけ大変なことか。

今回、アリーナB席を体験して、ひとつわかったことがある。それは、尋常ではないファンの熱だ。コスプレあり、JALのハッピ姿あり、メッセージを書いたプラカードを用意した人あり。そして、オープニングの『A Hard Day's Night』から大合唱だった。『Hey Jude』では終盤のコーラスを客が歌うのがお約束なのだが、ここで「NA」と書かれたプラカードを掲げる人が多く、それがスクリーンにも映し出された。エヌエーってなんだろう?と開演前は思っていたのだが、「Na na na na ~♪」のコーラスに合わせるということだったのだ。

ポールの2017年ツアーはここ日本から始まったが、25日の武道館公演後に北米ツアーの日程が発表された。この人は、いったいどこまでサービス精神旺盛なのか。いや、ちがう。きっと、音楽の可能性を信じ、音楽に対してどこまでも貪欲だからこそ、ヘフナーを抱え、鍵盤に指を滑らせ、そして歌い続けるのだろう。

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