パティ・スミス&フィリップ・グラス(Patti Smith & Philip Glass)すみだトリフォニーホール 大ホール 2016年6月4日14時開演
パティ・スミスが音楽家フィリップ・グラスと組んでアレン・ギンズバーグの詩を朗読するという、スペシャルなライヴだ。チケットに刻印されているもともとのタイトルは『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』だが、実際の進行はなんと6部構成になり、ワタシが受けた感想として上記のようにさせていただく。
1.ジェシー・スミス&テンジン・チョーギャル
定刻を少し過ぎたところで客電が落ちたが、ステージに出てきたのはパティではなく、チベット人テンジン・チョーギャルと若い女性。麦わら帽子を被りボーダー柄のタイトスカートをまとった彼女は、実はパティの娘ジェシーだ。ジェシーがピアノを弾き、テンジンによる歌と民族楽器の演奏で、この日のショウはスタート。テンジンの雄叫びには、幻惑させられそうな不思議な雰囲気があった。
2.パティ・スミス&フィリップ・グラス
いよいよ真打ち登場。白髪のロングヘアに黒のジャケット姿のパティは、3年前に観たときとあまり印象は変わらない。フィリップは足元おぼつかなさそうで大丈夫かなと思ったが、この人なんと79歳だった。フィリップがピアノを弾き、パティが左手に詩が記された楽譜?を持ってリーディングをするという格好だ。
ヒロシマやナガサキのことにコメントした後、パティ自身が書いた詩でスタート。穏やかな口調で詠みあげていた。続いてギンズバーグの詩にシフトし、戦争と向き合いつつ生に執着するさまなどが詠われた。
フィリップのピアノは優しい音色で、パティのリーディングをそれとなく後押ししているように思えた。パティは、詩によってはエモーショナルになり、リーディングというより歌っているように見えた。表現者としてのこの人のすごさを、改めて思い知らされた。
バックドロップには、ギンズバーグの写真や、村上春樹と柴田元幸による訳詞が映し出され、英語を解せずとも詩の内容がわかるようになっていた。やや直訳のところがあったり、更に深い意味がありそうな単語などもあったりしたが、嬉しい配慮だった。
3.パティ・スミス&レニー・ケイ&ジェシー・スミス
長年に渡りパティを支え続けている、「盟友」レニーがアコースティックギター。そして、娘ジェシーがピアノという編成。『Dancing Barefoot』を歌い上げるパティの姿に、彼女の本来のライヴの雰囲気を感じてなんだかほっとする。続く『Wing』では、なんと歌詞が飛んでしまったようで、「sorry…」と言っていた。この人でもこういうことがあるのかと思う反面、貴重な姿を垣間見ることができた気がした。ギンズバーグが好きだった曲と紹介して歌ったのは、『Pissing In A River』だ。
4.フィリップ・グラス
フィリップのピアノ独奏。パティだけでなく、この人自身もギンズバーグと親交があったようで、バックドロップには2人が一緒に写っている写真が何枚か掲示された。個人的には、デヴィッド・ボウイのベルリン作品をシンフォニー化したアルバムで知ったので、「オーケストラの人」というイメージを長らく持っていた。のだが、ピアノに向かい鍵盤に指を滑らせる姿こそが、この人の本来の姿なのではと感じた。
5.パティ・スミス&フィリップ・グラス
再び、フィリップのピアノに乗せてのパティのリーディング。ここで取り扱ったギンズバーグの詩は、空間を大きく超越した宇宙的な内容や、性器に言及した内容になっていた。後者は、魂の開放を宣言しているのかなあ、と。「holy」を連呼しさまざまなものを称える『Footnote To Howl』は、彼女の『Spell』に関連している?
6.全員
ラストは全員が勢揃いし、ここ10数年の彼女のテーマ曲のような『People Have The Power』を。ジェシーがピアノを弾き、テンジンは彼女のそばのマイクスタンドでコーラス。フィリップはレニーの横に陣取って手拍子とコーラスをする役になり、なんだかやりにくそうだった。そしてパティは、サビを客に歌わせるよう導き、ステージ前方に何度も歩み寄ってくれた。
セットリスト(2部以降)
1. Notes To The Future
2. Wichita Vortex Sutra
3. The Blue Thangka
4. Sunflower Sutra
5. Dancing Barefoot
6. Wing
7. Pissing In A River
8. Metamorphosis
9. Closing
10. On Cremation Of Chogyam Trungpa,Vidyadhara
11. Magic Psalm
12. Footnotes To Howl
13. People Have The Power
自分の知識が及ばないところが結構あり、公式パンフレットを参考にさせてもらった。テンジンが弾いていた民族楽器は、ダムニエンというらしい。訳詩を担当したうちのひとり柴田元幸は、東大文学部教授のアメリカ文学研究者だそうだ。
パティがギンズバーグの影響を大きく受けていることを知ってはいたが、この人の詩にダイレクトに触れたのは、個人的に今回がはじめてだった。それまでワタシが知っていたことといえば、ボブ・ディランの『Subterranean Homesick Blues』のPVで、左横にちらっと見える人ということくらいだった。
『Footnote To Howl』と『Spell』について、後で調べてみた。『Spell』は1997年にリリースされたアルバム『Peace And Noise』に収録されていて、『Footnote To Howl』の詩をバンドの演奏にのせてリーディングした曲だった。1997年はギンズバーグが亡くなった年でもあり(ウィリアム・バロウズも同じ年に亡くなっている)、パティは追悼の意を込めていた。つまり、この日のライヴでは絶対に取り上げなくてはならない詩だったのだ。
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