ニュー・オーダー(New Order)Studio Coast 2016年5月25日
公開日:
:
最終更新日:2022/09/25
New Order/Joy Division ジョイ・ディヴィジョン, ニュー・オーダー, フジロック
石野卓球がゲストDJと聞いていたが、開場直後からプレイは始まっていたようだ。DJブース脇には、ピエール瀧の姿も。ゲストとしては豪華は豪華だとは思うが、にしても2時間は長すぎた。
というわけで、20時過ぎにやっとニュー・オーダーがスタート。イントロのSEがしばし流れた後に、メンバーがゆっくりと登場する。オープニングは、昨年リリースした新譜『Music Complete』からの『Singularity』だ。バックには計5面のスクリーンがあり、2〜30年くらい前の英国の光景が映像として流れていた。
続くは、ヒットチューン『Regret』。イントロが響いた瞬間、場内の温度が上がった感覚を覚えた。20年以上前の曲だが、今この場においても輝きが失われることはない。がしかし、バーナード・サムナーの声があまり出ていない。いや、歌や演奏のクォリティについてはあるがままを受け入れるのが、ニュー・オーダーのライヴの楽しみ方だ。
メンバー配置は、中央にバーナード、向かって右にキーボードのジリアン・ギルバート、後方向かって左にドラムのスティーヴン・モリス。スティーヴンの手前にフィル・カニンガム、バーナードとジリアンの間やや後ろにトム・チャップマンという具合だ。
スティーヴンが叩き出すビートは思った以上に重く、バーナードとフィルのギターもかなり生々しい。トムの存在感はさすがにピーター・フックには及ばないが、それでも要所で前方ににじり寄ってくるなどのアクションがある。ジリアンも、ちゃんと弾いている(笑)。フィルはもともとジリアン脱退の穴を埋めるべく加入したはずだが、2人が共存しているというのが、とても興味深い。というわけで、曲によってはツインキーボードにもなっていた。
意外とフィジカルなライヴパフォーマンスに、エレクトロビートが絶妙なバランスで融合している。デジタルのようでデジタルでなく、フィジカルではなさそうでいて実は肉体性を感じさせるプレイをする。不思議なバンドだ。加えて今回は映像のクォリティが高く、ライティングも効果的だ。
中盤のハイライトは『Bizarre Love Triangle』だ。ミディアム調で、よくも悪くも80年代っぽさを残す曲調は、正直、あまりライヴ向けの曲とは思っていなかった。この場内の状況に驚かされた。そうなったのは、単独公演では実に29年も待たされたという飢餓感と、それに反応してこの日この場に集まった、ファンたちの熱い魂だろう。
『Music Complete』は、ギターロック色が薄くなりダンスミュージックに舵を取っていて、時代に呼応し今の音として十分機能する、素晴らしい作品と感じている。とても、還暦を間近に控えるオジサンオバサンのバンドが発しているとは思えないクォリティだ。中心はやはりバーナードと思うが、フィルとトムの貢献度がもしかしたら高いのかもしれない。『Plastic』は個人的に新譜のベスト曲で、ライヴで聴けて嬉しかった。
そして終盤は、『The Perfect kiss』『True Faith』という、まさにファンが求めている曲の連発だ。序盤はがさがさだったバーナードの声も、さすがにこのときになると機能するようになっていた。『True Faith』の映像は、あの謎のPVにアブストラクトなエフェクトをかけていた。そして、本編ラストは長尺アレンジの『Temptation』だった。
アンコールは、『Blue Monday』のイントロだけで場内が湧いた。ルー・リード『Street Hassle』のサンプリングを絡めつつ長い長いイントロを4人で演奏し、最後にバーナードが登場して歌い始めた。ただ個人的には、以前ならこの曲が頭ひとつ抜きん出たアンセムのイメージがあったのが、今回はこの曲とほぼ同列のアンセムとして機能した曲がいくつもあったように感じた。終盤になると、バーナードはジリアンと連弾するのだが、やがてジリアンを追いやって自分だけで弾いていた(笑)。
続く『Love Will Tear Us Apart』は、言わずと知れたジョイ・ディヴィジョンナンバーで、バックドロップにはイアン・カーティスの写真や「FOREVER JOY DIVISION」の文字が浮かぶたびに場内のリアクションが一層大きくなった。そして、ジョイ・ディヴィジョンの曲はこの日この1曲だけだったと気づいた。オーラスは、『Music Complete』のラストナンバー『Superheated』だ。ここがバンドの現在位置だという、バンドの意思表示のように思えた。
セットリスト
Singularity
Regret
Academic
Crystal
1963
Restless
Your Silent Face
Tutti Frutti
People on the High Line
Bizarre Love Triangle
Waiting for the Sirens' Call
Plastic
The Perfect Kiss
True Faith
Temptation
Encore:
Blue Monday
Love Will Tear Us Apart
Superheated
個人的にはニュー・オーダーをこれまで2回観ているが、2005年フジロックと2012年サマーソニックで、つまりはどちらもフェスティバルだった。巨大会場で大勢のファンと喜びを分かち合うのは、確かに醍醐味だった。今回は屋根のあるライヴハウス会場で、各メンバーの動きや楽器など、細かいところまで観ることができた。スティーヴン・モリスのメガネも、バーナードがワインを飲むのも、はっきりと観ることができた。
スタジオコーストには、毎年数回足を運んでいるが、今回ほど客が詰め込まれたことはなかったように思った。2階両サイドのバルコニーは開場直後から満杯で、つまりは業界人関係者たちがこぞって集まったのだ。1階スタンディングフロアはすし詰めで、もっと暴れ系のバンドだったら混乱が生じてもおかしくなかったと思う。それだけ、記念碑的な公演だったのだ。
関連記事
-
ニュー・オーダー(New Order)『Live In Glasgow』
2008年にリリースされた、ニュー・オーダーもっかの最新DVDを観た。2枚組で3時間半以上と
-
ピーター・サヴィル・ショウを観に行ってきた(2003年10月26日)
ラフォーレ原宿のミュージアムで開催されている、ピーター・サヴィル・ショウを観に行って来た。
-
ジョイ・ディヴィジョン(JOY DIVISION 映画・2008年)
ジョイ・ディヴィジョンの活動を追い、当事者や関係者の供述でフォローしたドキュメンタリーだ。
-
ニュー・オーダー(New Order)『5 11 – Finsbury Park 9th June 02』
2002年の6月にロンドンのフィンズベリーで行われた野外フェスティバルの映像で、同封の解説に
-
24アワー・パーティ・ピープル(2003年)
イギリスのインディレーベル「ファクトリー」、及びその創始者であるトニー・ウィルソンの半生を描