ボブ・ディラン(Bob Dylan)『Don’t Look Back』デラックス・エディション
ボブ・ディランの、1965年春のイギリスツアーに密着したドキュメンタリー映像を観た。全編モノクロである。
冒頭、ディランが歌詞の単語が書かれた紙を次々にめくって行く、『Subterranean Homesick Blues』でスタート。軽快なメロディとシンプルな作りの映像とのシンクロは、プロモーションビデオの原点とも言える。映像はライヴ映像だけでなく、メディアとのインタビューに答え、女性ファンに接し、楽屋で騒ぎ立てる様子なども捉えていて、非常に貴重である。楽屋にはジョーン・バエズやドノヴァン、元アニマルズのアラン・プライスなども出入りしていて、バエズがギターで弾き語りする傍らでディランがタイプライターを打ち込むシーンは、何気ない場面でありながらぞくぞくさせられる。
「デラックス・エディション」としての特典は、大きく2つある。まずひとつは、未発表映像で編集されたボーナスディスクだ。本編は約90分だが、こちらは約46分。「65 Revisited(ツアー65再訪)」と題されていて、本編とほとんどかぶらないライヴのシーンや楽屋でのジョーン・バエズの独唱シーンなどが収められている。本編がドキュメント色を前面に出すためライヴの完奏シーンが皆無なのに対し、コチラではむしろライヴシーンの方をメインに据えている。監督であるD.A.ペネベイカーとツアーマネージャーだったボブ・ニューワースによるコメントを、副音声として収録していて、ツアーや撮影の裏話などが伺える。そしてもうひとつの特典は、あまりにも豪華な装丁だ。台本と貴重な写真で構成されたペーパーブック、そして『Subterranean Homesick Blues』のパラパラ写真と、遊び心いっぱいである。
ブックレットなどをもとに、この時期のディランの活動を整理してみる。春のツアーは65年4月下旬から5月上旬までの約2週間に渡って行われた。この年3月に『Bringing It All Back Home』がリリースされていて、アルバムでは既にエレクトリックに移行しているのだが、このツアーはまだ全編アコースティックである。イギリスではやっと『時代は変わる』のシングルがリリースされ、イギリスではまだ「フォークの人」だったがためにこうしたねじれ現象が起こったとされている。
公演の最終はロイヤル・アルバート・ホールで2夜続けて行われていて、初日のアフターパーティにビートルズが顔を見せ、2日目には客としてライヴを観に来ていたとのこと。またこの時期、ジョン・メイオールやミック・ジャガーとの交流もあったらしく、そしてボーナスディスクにはニコの姿も確認できる。ディランが『Like A Rolling Stone』を書いたのは、このツアーからの帰国前後と言われている。時系列的にはこの後7月にニューポート・フォーク・フェスティバルに出演してエレクトリックを爆音でガンガンにやり、そして8月に『Highway 61 Revisited』がリリースされている。
『Don't Look Back』は、日本盤は長らく廃盤状態だった。ワタシは以前輸入盤のビデオを買っていて、字幕のない状態で雰囲気だけを楽しんでいた。今回、リマスターされた本編、ボーナス映像、詳細の資料などを手にして改めて映像を観て思ったのは、これはドキュメンタリーの体裁を取りつつも、カメラの向こうのディランは撮られていることを意識しつつ、メディアとぶつかったり車内からおどけた表情でファンを見ていたりと、ある程度キャラクターを「演じて」いたのではないかということだ。
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