ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)@東京国際フォーラム ホールA 2016年4月13日
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最終更新日:2024/05/22
Beach Boys/Brian Wilson エリック・クラプトン, ビーチ・ボーイズ, ブライアン・ウィルソン, ボブ・ディラン, ロンドン
ブライアン・ウィルソンがソロで来日公演を行うのは、今回が4度目だ。個人的には、1999年、2005年に続き3度目の参加になる。今回は、名盤『Pet Sounds』リリース50周年を記念してのアルバム全曲演奏が目玉になっている。
ショウは途中休憩をはさむ2部構成で、第1部はベストヒットだ。開演予定を10分近く過ぎた頃、客電が落ちる前になんとブライアンを先頭にして、バンドが姿を見せた。『Our Prayer』の美しいコーラスから『Heroes And Villains』となり、アルバム『Smile』の出だしまんまに。しかし、この後『California Girls』『I Get Around』というビーチ・ボーイズナンバーになり、場内は早くもノリノリになる。
バンドは大所帯だ。ステージ後列左から右にギター、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、ギター。前列向かって右には、サックスのポール・マーテンズ。左端にはキーボード2人。うちひとりは、ブライアンの「参謀」ダリアン・サハナジャだ。そして前列中央左に、キーボードの前に鎮座するブライアン・ウィルソン。中央右には、アル・ジャーディンという配置だ。
過去に2度観ていることもあり、ブライアンがほとんど弾かないのは知っていた。そして今回は、年齢のせいもあるのか、あまり歌ってもいない。ダリアンにまるまる歌わせたり、後方のギタリスト(アル・ジャーディンの息子)に高音を委ねたり、という具合だ。ここで心強いのが、ビーチ・ボーイズの「盟友」アル・ジャーディンだ。小柄な体をリズミカルに揺らしながらギターを弾き歌うその姿は、思った以上に現役感があった。
そして、もうひとりの盟友も登場。ブロンディ・チャップリンで、ギターをノイジーにかきならし、陽気なキャラクターで他のメンバー全員に絡み、と、これまでのブライアンのライブにはない新風を吹き込んでいる。第1部はベストヒットに始まったが、後半は『Wild Honey』など珍しい曲の披露もあって、これはこれでユニークだった。
20分の休憩を経て、いよいよ『Pet Sounds』全曲演奏の第2部へ。『Wouldn't It Be Nice』のイントロ部分のデモテイク?がループ処理される中でメンバーが姿を見せ、アルの息子とブライアンとで歌い分ける格好で曲が進んだ。
個人的には2002年の『Pet Sounds』全曲演奏の来日公演を観ておらず、ライヴDVDのイメージを頭に描いていた。ロンドンのロイヤルフェスティバルホール公演を収録したDVDでは、ブライアンはとてもリラックスしていて、ほぼ1曲毎にMCを入れていた。しかし、ここでのライヴはそうはならなかった。雰囲気としてはむしろ『Smile』全曲演奏ツアーに近く、緊張感が漂っていたのだ。
場内を包む雰囲気が懐メロにならず緊張感に溢れているのは、バンドのスキルの高さだ。どうやらバンマスはポールで、自らはサックスやフルートなどを巧みに使い分けつつ、メンバーに目を配ることも忘れていない。そして、音楽的に牽引しているのは、ブライアンの参謀と言っていいダリアンだ。長年ブライアンに仕えているだけあってか、ドラマーに合図を出すさまにも余裕があった。メンバーの大半は複数の楽器をこなし、彼らの技量と熱意が、宅録の元祖のような『Pet Sounds』をライヴの場でよみがえらせている。
アルバム後半部に差しかかったところで、ブライアンのがMCを入れてきた。そして『God Only Knows』でショウは加速し、『I Just Wasn't Made for These Times』では第4コーナーをまわったような雰囲気に。インストのタイトル曲を経て、ラストの『Caroline, No』で大団円を迎える。しかしブライアンは、自らの歌のパートが終わると、さっさとステージを後にしてしまった。
アンコールは、ポールの紹介により、メンバーがひとりずつステージに姿を見せるというスタイル。最後の3人は、もちろんブロンディ、アル・ジャーディン、ブライアンだ。そして『Good Vibrations』のイントロが鳴ったとき、場内は総立ちに。執拗にも思えるハーモニーは、永遠不滅の輝きと奥行きの深さを、わずか数分間の中に凝縮することに成功している。
ここからは、メドレー形式でベストヒットを連発。第2部の緊迫感の反動のように場内もバンドも弾けている。というか、『All Summer Long』に『Help Me, Rhonda』に『Surfin' U.S.A.』に『Fun, Fun, Fun』って反則すぎるだろ。パーカッションの人もステージ前方に踊り出るわ、しかしここでも一番やりたい放題だったのはブロンディだった。
そして、オーラスは『Love And Mercy』。ブライアンの初ソロアルバムの冒頭の曲であり、ライヴではラストに歌われることの多い曲だ。何度も聴いてきた曲だが、今回は今まで以上に染みた。それは、この曲名を冠したブライアンの伝記映画を観たせいもある。長きに渡る苦難の時を経て、この人は帰って来た。そこには、現夫人メリンダの愛情と支えがあった。休憩のときにパンフレットに目を通したのだが、マネージメントにメリンダ・ウィルソンの名前を見て嬉しくなった。この曲は現在のブライアンの出発点であり、また帰るべきところなのだと思う。
Our Prayer
Heroes And Villains
California Girls
Dance, Dance, Dance
I Get Around
Shut Down
Little Deuce Coupe
Little Honda
In My Room
Surfer Girl
Don't Worry Baby
Wake The World
Add Some Music To Your Day
Honkin' Down The Highway
Darlin'
One Kind Of Love
Wild Honey
Funky Pretty
Sail On, Sailor
Set 2: Pet Sounds
Wouldn't It Be Nice
You Still Believe In Me
That's Not Me
Don't Talk (Put Your Head on My Shoulder)
I'm Waiting For The Day
Let's Go Away For Awhile
Sloop John B
God Only Knows
I Know There's An Answer
Here Today
I Just Wasn't Made For These Times
Pet Sounds
Caroline, No
Encore:
Good Vibrations
All Summer Long
Help Me, Rhonda
Barbara Ann
Surfin' U.S.A.
Fun, Fun, Fun
Love And Mercy
今回のツアーの目玉は『Pet Sounds』全曲演奏だが、ブライアンとアル・ジャーディンが共にステージに立つショットもまた目玉だった。ブライアン単独名義ではなく、ブライアン・ウィルソン&アル・ジャーディンという名義でもよかったのにと思った。セットリストはソロからがたった2曲で、つまりビーチ・ボーイズどっぷりの構成になっていて、それはアルとブロンディを迎え入れていることもあったと思う。
この日4月13日は、ボブ・ディランが大阪で、エリック・クラプトンが武道館で、そしてブライアンが国際フォーラムで、それぞれライヴを行った。レジェンド級の超大物が3人同時に日本にいるだけでもすごいことなのに、現役バリバリで同じ夜にライヴをやっているなんて、「素敵じゃないか」。
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