キング・クリムゾン(King Crimson)『The Great Deceiver』
『Frame By Frame(紅伝説)』のリリース翌年の1992年、キング・クリムゾンは『The Great Deceiver』というボックスセットをリリース。1973年から74年までに限定しつつ未発表音源4枚組というヴォリュームは、当時も今も革新的だ。
このときのラインナップは、ロバート・フリップ、ビル・ブラッフォード、ジョン・ウェットン、デヴィッド・クロス。時期的には『Larks' Tongues In Aspic』『Starless And Bible Black』リリース前後のツアーなのだが、『Red』に収録されている曲も既に演奏されている。
フリップ&イーノの『No Pussyfutting』のイントロを経て『Larks' Tongues In Aspic Part 2』ではじまるオープニングから既に圧巻。収録曲は1973年体制以降が大半だが、ウェットンが歌う『20th Century Schizoid Man』は結構新鮮だ。各メンバーの演奏は、決して共存ではないが、といってぶつかり合っているわけでもない。結果生み出された世界観は、プログレッシヴ・ロックの極点に達しているのではないだろうか。
字数の豊富なブックレットは、読み手を疲弊させる。が、音源を聴いただけではわからないバンドの状況を、補完してあまりある情報だ。このボックスに先駆けてリリースされた(当時の)キャリア横断ボックスセット『Frame By Frame(紅伝説)』についてのメディア評も掲載されていて、フリップの中ではこの2つのボックスは姉妹作の位置付けなのかもしれない。
フリップによるツアーダイアリーは、かなり細かい。リハーサルが日によってうまくいかなかったこと、ツアーに疲弊していること、プロモーターともめたこと、日によってはメンバー間が緊張関係にあったことなどが記されている。移動もかなり強行で、この時代のアーティストのツアーの過酷さが垣間見られる。
中でも注目は、バイオリンのデヴィッド・クロスの動向だ。この人自身、バンドが進む方向と自分のスタイルとにズレを感じるようになり、74年のツアー終了後に脱退を表明。その直後にバンドは『Red』のレコーディングに入るが、完成後リリース直前にフリップはクリムゾン解散をブラッフォードとウェットンに告げている。結果的に、『Red』制作直前のニューヨークの野外公演が、ラストライヴになってしまった。
キング・クリムゾンはとにかくメンバーチェンジの激しいバンドで、音楽性も時期によって異なってくる。個人的には1972~74年のクリムゾンを最も気に入っているのだが、それはこのボックスを多くのオリジナルアルバムよりも早くに聴き浸ったからかもしれない。
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