イヤー・オブ・ザ・ドラゴン(1985年)
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最終更新日:2021/02/19
スパイ・探偵・刑事 ミッキー・ローク, ロバート・デ・ニーロ, 松田優作
ニューヨークのチャイナタウンでマフィアの抗争が勃発し、それを鎮静するためにひとりの刑事が赴任する。刑事は犯人の検挙率は高い腕利きだがやり方が強引で、警察でも浮いた存在。仕事に熱心すぎて奥さんともうまくいっていない。マフィアの若きボスは、老いた他のボス連中の古いやり方には限界があると感じ、冷静かつ大胆な行動力を発揮して街を統制しようとする。監督はマイケル・チミノ、脚本はマイケルと共同でオリバー・ストーンが担当。主人公の刑事をミッキー・ローク、好敵手たるマフィアのボスをジョン・ローンが演じている。
しかし、なぜこの映画は「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」というタイトルなのだろう?直訳すれば、「辰年」となる。公開は85年で、その近辺での辰年となると1976年に1988年となる。しかし劇中では、描かれているのが正確に何年のこととはうたわれていない。次に、ネットでいろいろ調べてみた。商用サイトのDVD販売情報とか、この映画を観た人の感想などには引っ掛かったが、このタイトルの由来に直接言及したサイトは、ついに見つけることができなかった。ただし、付随していろいろな情報を得ることができたので、それらを自分なりに整理して、以下のように推測してみた。
1.西洋に根付く中国人社会を象徴的に指す
中国では、架空の生物でありながら、龍は聖なる生き物として神聖視されているそうだ。辰年に子供が生まれるとその一家は繁栄するとか、辰年には覇王が生まれるという言い伝えがあるそうで、皇帝のシンボルとしても用いられている。
ミッキー・ローク演じる刑事がマフィアに対し市警への協力を促したとき、ジョン・ローン演じるマフィアは、警察に協力しても(差別されて)まともに取り合ってもらえなかった過去を話し、自分たちの街は自分たちで仕切ると言い放つ。他にも、中国人であるがゆえにアメリカにおいてアメリカ人に差別されてきたことが、随所で見ることができる。
アメリカは自由とチャンスの国と言われ、多くの人種が共存している社会だが、その実体は白人優位で、他の人種は差別され続けているという背景があるようだ(今現在はどうだろうか)。そんな状況にもかかわらず、チャイナタウンはニューヨーク屈指の観光地としてのし上がり、中国人の手によって独立国家的に存在していて、それが白人に対して脅威になっていることを暗示していると考える。
2.辰年=1976年を指す
1976年はアメリカ建国200年の年であり、前年の1975年にはベトナム戦争が終結している。ベトナム戦争に加担したアメリカ、しかし戦争に勝つことも鎮圧させることもできず、疲弊して手を引くしかなかったアメリカ。更には、ウォーターゲート事件での大統領失脚による政治不信などもあり、この頃のアメリカ人は自国に対して夢や希望を持てる状態ではなかったらしい。建国200年を祝う気運がある一方、そんな浮かれっぷりを冷ややかに眺める醒めた空気もあったようなのだ。
この作品で描かれている抗争も、まるっきりフィクションというわけではなく、ニューヨークのチャイナタウンでは実際に1977年から1982年頃にかけて抗争があり、それを下敷きにしているようなのだ。アメリカ建国200年である1976年は、ベトナム終戦を引きずり、後には中国人の台頭を許すという、分岐点の年になったという意味合いを持たせようとしたのだと考える。
ミッキー・ローク演じる主人公の刑事はベトナム出兵の過去を持ち、東洋人を憎んでいるという人物像になっている。チャイニーズマフィアに尻込みする同僚や上司に向かい、これは戦争なんだ、勝たなくてはならないんだと言い、更にはベトナムでは誰も勝とうとしなかった、そのときと同じでいいのかと言い放つ。しかし主人公自身がポーランドの移民であることを劇中明かしていて、アメリカ人として東洋人と戦う一方、移民の人間としてアメリカ人を批判するというスタンスも取っている。
B級バイオレンスアクション映画、ミッキー・ロークが最もカッコよかった頃、後に『ラストエンペラー』で大ブレイクするジョン・ローンが主役のミッキー・ロークを食った、といった辺りが、この作品に対する多くの声だと思う。しかしこの作品の根底にあるのは、「人種問題」「ベトナム戦争」といった要素を介して行われる、アメリカという国への警告なのだと思う。マイケル・チミノが以前監督している『ディア・ハンター』でロバート・デ・ニーロが演じた主人公も、ロシア系の移民だった。脚本に参加しているオリバー・ストーンが、自身のベトナム出兵経験をにじませた『プラトーン』を世に出すのは、この作品の翌年だ。
この映画、故松田優作が観て悔しがったというエピソードを聞いたことがある。今でこそ渡辺謙をはじめ日本人俳優がハリウッドに進出しているが、かつては世界を市場にした映画では、東洋人は小さな扱いだったり、妙な偏見に染まった扱いだったりした。しかしこの作品では、西洋人と東洋人が対等に渡り合っている。ジョン・ローンの役は自分でもできたはずだと、松田優作は言ったそうだ。この作品は85年公開だが、その4年後に松田優作は『ブラック・レイン』に出演して、そのときの思いを果たす(ただし、自らの命と引き換えに)。
そういえば、『ブラック・レイン』は『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を意識したのではと思われるシーンがいくつかある。『ブラック・レイン』も出だしはニューヨークが舞台だし、冒頭の殺人シーンの場所がレストランなのも共通している。クライマックスが、刑事とヤクザ(マフィア)による1対1の直接対決になるのも。
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