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バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(ネタバレあり)

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

リーガンは、かつてはスーパーヒーロー映画で主役バードマンを演じるスター俳優だったが、それも20年以上前のこと。以降はヒットに恵まずに落ちぶれ、妻とも離婚。一人娘は薬物中毒になっていた。

再起をかけるリーガンは、ブロードウェイに進出し、演出を手掛けつつ主演。薬物更生施設から退院した娘を、付き人に据える。しかし、ケガのため交代した舞台俳優マイクは、ステージでの演技は抜群だが行動は身勝手。そしてリーガンは、もうひとりの自分のような存在が発する、心の声に悩まされる。

今年のアカデミー作品賞と監督賞を受賞した作品だ。舞台はニューヨークと言いつつ、ほとんどは劇場のステージや楽屋の中で、密室劇と言ってもいいかもしれない。各キャラクターは舞台を成功させるために一丸とならなければならないが、みなそれぞれに事情を抱えている。プレビュー公演はいずれも散々だったが、公演初日に奇跡が起こる。

リーガンを。腹はたるみ、ヅラを取った頭髪は寂しい。ぶっちゃけ、見た目は決してカッコよくはないが、復活しようとする落ちぶれた俳優を見事に演じている。娘サムを。『アメイジング・スパイダーマン』での優等生グウェンとは一転し、まさかの薬物中毒者だ。マイクを。ちゃらい役柄なのに、発することばは結構哲学的だ。

パロディネタも多い。リーマン/バードマンは、マイケル・キートン/バットマンだ。心の声がお前のピークは1992年だと言ったときに、はっとさせられた。その年は『バットマン・リターンズ』が公開された年だからだ。リーマンが、もし自分とジョージ・クルーニーが乗る飛行機が落ちたら、新聞を飾るのは彼ばかりになると言った。クルーニーは、『Mr.フリーズの逆襲』でバットマンを演じていた。リーマンの現在の恋人と、演じる女優とのキスシーンは、『マルホランド・ドライブ』にかかっている。ほかにも、まだまだちりばめられていると思う。

この作品を特別たらしめている要素が、大きくふたつある。ひとつめは、長回しに見せているカメラアングルだ。劇場内の各キャラの動きや場面切り替えは、ほぼこのアプローチだ。時に時間をすっ飛ばしもしていて、最初だけ違和感があったが、慣れればむしろ痛快に思えてくる。

ふたつめは、リーガンの妄想と現実との境目があいまいなことだ。リーガンは宙に浮いたり手に触れず物を動かしたりしているが、もちろんそんなことはできるはずがない。それが公演初日の朝、指を鳴らすと炎の玉が降り注ぎ街中が戦場となる。ビルの屋上から飛び降りたリーガンは、颯爽と空を飛ぶ。それまで現実逃避の妄想だったのが、バードマンに鼓舞され後押しされ、リーガンもそれを受け入れたのだ。

長回しアングルは、誰の視点だったのか。ワタシは、そのほとんどがバードマンの視点ではないかと思っている。

場面切り替えの際必ず流れていたドラムビートは、メキシコ人ジャズジシャンのアントニオ・サンチェスによるもの。この人、なんと先週来日していて、ブルーノートやコットンクラブで公演を行っていた。

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